VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1389 『終戰』(福澤正洋/アカツキ電光戦記/PC)

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SUBTLE STYLEがおくる対戦格闘ゲームアカツキ電光戦記より、

福澤正洋作曲、『終戰』。エンディングからスタッフロールにかけて流れます。

国内の同人サークル・SUBTLE STYLEの代表作である本作。紀元二六六X年、大戦末期に沈んだはずの潜水艦が突如浮上し、中からコールドスリープより覚醒した旧帝国陸軍技官・アカツキが現れたことをきっかけに、機密兵器・電光機関をめぐる熾烈な戦いが始まることになる。SFと二次大戦の軍記色を前面に押し出したハードでディープな世界観が特徴で、軍人はもちろん魔女やマフィア、果てには戦車まで、凄絶なバックグラウンドを背負った12のキャラがプレイアブルである。操作は8方向レバー+弱・中・強攻撃の3ボタン制で、打撃と投げと攻性防禦の3すくみを軸としたスタンダードなシステムを採用している。コマンド入力は総じて簡潔で、ゲージ類も体力・防禦(ガードクラッシュの概念あり)・特攻(必殺技)の3種類であり、極力コンパクトにまとめられている。収録されているモードは主にネット対戦用のONLINE、一人用でストーリー仕立てのARCADE、タイマンのVERSUS、チーム対抗のTAG BATTLE、練習用のPRACTICEで、各種オプションやリプレイなども参照できる。また、ARCADEをクリアするたびに隠し要素が解禁される。独特な殺伐さとシステム面の潔さが印象的な仕上がりとなっている。後にアーケード向けに移植された。

本作の音楽を担当するのはA-Chap氏と福澤正洋氏。1曲のみギター演奏でha-j(佐藤肇)氏が関わっている。このうちcharly名義でも知られる福澤氏が大半の作曲を手がけていて、福澤氏は続編のエヌアイン完全世界でも引き続き携わっている。本作ではギターやシンセを使ったロックサウンドを中心としつつ、国際色豊かで個性強めのキャラを彩るにあたってクワイアや二胡を用いたり、テクノやファンク系の曲調を取り入れたりしてジャンルに幅を持たせている。曲名はすべて漢字二字、ものによっては旧字体を用いて命名されている点が印象深い。また、作中にはサウンドテストが搭載されている。サウンドトラックはアーケード版の移植に伴う形で登場した。

エンディングからスタッフロールにかけて流れるのがこの曲である。戦いが終わって結末が語られるエンディングシーンからスタッフロールへと遷移する一連のシーケンスを、一つの曲で緩急をつけて彩っている。徐々に音量を増すリバースシンバルで始まり、続いて哀愁と余韻をたっぷり湛えながらベースやストリングスが奏でられる。16秒頃から合成音声らしき歌声が響き渡り、入れ替わるようにして27秒からエレキギターが入ると、音色そのものは力強いが依然として曲調全体としては穏やかである。47秒でギターが吼え猛るのを合図に、ちょうど作中でも止め絵で決めたままスタッフロールに移り、じきにタイトルロゴが表示される。それまでの悲愴な雰囲気を踏襲しつつ、ここから一気に勢いに火がついて熾烈なロックナンバーに変貌する。1分~1分5秒でみられるように急激に高音を鳴らす箇所を設けたり、1分11秒から再び歌声を取り入れたりすることで、耳の奥に留まり続ける余韻をもたらす。曲前半と後半でがらりと変わるなかでも物悲しい余韻が残留する点は変わらない。結末の苦さ、演出の妙と相まって卓越した迫力を誇る凄絶な一曲である。

この曲を紹介してほしいというリクエストをいただきました。曲前半は導火線に着火してから燃え始めるまでの猶予みたいな感触ですね。シチュエーション込みでよく決まっていると思います。