VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1293 『弟斬十兵衛』(高田雅史/猫侍/PS)

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ヒューマンがおくる時代劇アドベンチャー・猫侍より、

高田雅史作曲、『弟斬十兵衛』。エンディングで流れます。

クロックタワーシリーズなどで知られるヒューマン製のオリジナル作品にあたる本作。江戸を舞台に、猫又たちの剣客集団・御神楽党にかつて属するも、弟を斬ってしまったことをきっかけに離党した孤高の猫侍・弟斬り十兵衛は、ときどき襲い来る刺客を捌きながら気ままに生きることになる。猫たちが暮らす江戸での生活を追体験する点に重きを置いた、ライフシミュレーション的な要素を備えたアドベンチャーゲームである。半年の刻限のなかで、時間帯や場所、住民との好感度などに応じて展開する150以上の細々としたイベントや、丁半博打といった江戸ならではのミニゲームを楽しむことができる。グラフィック面で特筆すべきはフェイストラッカーを採用している点で、会話シーンではキャラの表情や口が違和感なく滑らかに動く。全体的に自由度が高く、一周では見切れない数のイベントが用意されている一方で、物語の導線や発生条件等は明示されないため、自分なりの楽しみ方を見つけることが醍醐味である。ハードボイルドな時代劇としてよく練られた仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは高田雅史氏。かつてヒューマンに在籍していた作曲家で、本作はヒューマン時代の担当作品としては(ヒューマンが本作発売の翌年に倒産したこともあって)かなり後期のものである。本作は主人公が猫といってもほんわかとした雰囲気は薄く、本格的な時代劇に寄っているため、音楽もその渋さに見合った上質なものが揃っている。和楽器や環境音などを巧みに用いて和風らしさを演出しつつ、エレキギターやシンセといった電子楽器も用いることで、センスのあるフュージョン系のサウンドを生み出している。サウンドトラックはゲーム発売後まもなく登場した。

エンディングで流れるのがこの曲である。ラストシーンから流れ始め、スタッフロール中はもちろん、スタッフロール後の短いエピローグまで流れる。因縁を断ち切って安らかに目を瞑る、何とも尾を引く象徴的な終幕を彩るにあたって、この曲は終始穏やかな調子で心ゆくまで余韻に浸らせてくれる。はじめはパーカッションのみだが、5秒頃から徐々に音数が増えると、その響きは心地良いはずなのにどこか喪失感があるような印象をもたらす。ピアノ、アコースティックギター、シンセストリングスなど、曲が進むにつれて様々な楽器が加わるが、何が加わろうとも曲全体を貫く哀愁と落ち着きが失われることはなく、むしろどんどん味わいを増していく。特に1分44秒から奏でられるエレキギターの音色は驚くほど綺麗に曲調に融け込んでいて、2分16秒以降のピアノ・アコギ・エレキのブレンド具合は抜群に気持ち良い。曲後半、3分33秒で一旦静まってから断続的にギターの甘い音色を紡ぐ一連の流れも印象深く、シンセストリングスが再び加わる4分27秒以降になると最後の盛り上がり(といっても相変わらず緩やかだが)をみせる。この曲はエンディングのテーマであると同時に、曲名が示す通り主人公のテーマでもあるが、まさしく十兵衛の渋い生き様を見事に表現した一曲である。

異常に心地良くて好きです。来世があるならこういう曲が似合う主人公になりたいです。