VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1570 『テンマガハラ』(入間川幸成/世界一長い5分間/PSV)

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SYUPRO-DXと日本一ソフトウェアがおくるアドベンチャーRPG・世界一長い5分間より、

入間川幸成作曲、『テンマガハラ』。テンマガハラで流れます。

彼女は最後にそう言ったなど主にアプリ向けの作品開発で知られるクリエイター集団・SYUPRO-DXと日本一ソフトウェアのタッグで制作された本作。魔王との最終決戦で突如として記憶喪失に陥った勇者・バックは、仲間や魔王との会話を通じて旅の思い出を蘇らせ、自分を取り戻すことになる。ベタなレトロRPG風の世界観やキャラ造形ながらも、回想形式で旅の記憶を辿っていく異色のストーリーテリングが特徴的である。ラスボス戦真っ最中の5分間のやりとりを描くADVパートと、これまでの冒険を追体験するRPGパートに分かれていて、RPGパートを介して他愛もない日常描写も含めて思い出を振り返ることでADVパートの窮地を打破していく。RPGと言ってもレベル上げや装備集めなどは簡略化されていて、基本的に一つの回想から次の回想へはステータスが持ち越されない仕様であるほか、主人公が勝手に記憶を美化して思い出補正をかけてくれるため、緩めの難度でさっさとこなせるテンポ感がある。一方でエンカウント率の高さやマップ構造の単調さなど良くも悪くも古典的な作業感があり、純粋なRPGやアドベンチャーというよりは、それらの要素をオマージュ的に取り入れた短編ノベルのようなつくりに近い。総じてちょこっと味わい深い仕上がりとなっている。後にSteamやスイッチに移植された。

本作の音楽を担当するのは入間川幸成氏。SYUPRO-DXに所属する作曲家である。同チームが制作する作品には初期のサウンドなしアプリを除きほとんど携わっていて、サウンド制作を一手に担っている。これまではドット絵のグラフィックに合わせてチップチューンを制作することが多かったが、本作では変わらずドット絵ではあるもののチップチューン中心ではなく雄大なファンタジー系のオーケストラサウンドを取り入れている。RPGパートにはシーンごとに彩り豊かな楽曲が用意されていて、すっと耳に入ってくる王道さがある。対するADVパートではピアノやストリングスを駆使して決戦をぐっと盛り上げてくれるスリリングなサウンドが揃っていて、双方のパートを行き来することでうまく緩急をつけている。サウンドトラックについては、初回限定盤に本作およびSYUPRO-DXの歴代作品の楽曲集が付属されているほか、Steam経由でも配信されている。

テンマガハラで流れるのがこの曲である。旅の後半から終盤にかけて訪れる、神使がいる孤島で、鳥居や社などがあり非常に色濃く和の風情が漂っている。出だしから至福の安心感に満ちた三味線が印象的に奏でられ、慎ましやかな音色でゆったり長閑でほんのり切ない雰囲気を充満させる。13秒から篠笛を彷彿させる美しく透き通った調べが加わると、さらに和風らしさが強調されて郷愁と優美を誘う。基本的に飾らないシンプルな曲調を貫くが、44秒から流れがすこし変わり、59秒から伴奏にストリングスや胡弓を伴うようになると、シンプルな味わいを保ちつつも豊潤な奥行きと広がりを感じさせる。再び笛が合流する際にはそのまま天に届きそうなほどに玲瓏な高音を披露し、そこに胡弓や三味線などが優しく寄り添うことでこの上なく佳麗な趣を生み出す。清絶幽絶な一曲である。

聴いているとおのずと憑き物が落ちて祓われるような感じがしますね。