VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1622 『Kiss twice』(菊田裕樹/クーデルカ/PS)

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サクノスがおくるRPGクーデルカより、

菊田裕樹作曲、『Kiss twice』。ラスボス戦で流れます。

菊田裕樹氏率いるサクノスが開発した本作。1898年、イギリスのウェールズ地方を舞台に、ネメトン修道院に導かれるようにやってきた少女・クーデルカは、その身に宿す強い霊力を駆使して異形蔓延る修道院の謎を紐解いていくことになる。ゴシック風のダークファンタジーの作風が特徴的で、RPGと謳いつつ探索時はホラーアドベンチャー形式、戦闘時はマス目状のターン制で進めるシミュレーションRPG形式を取っている。特筆すべきはグラフィックへのこだわりで、当時最先端だったモーションキャプチャリップシンク技術を取り入れて非常に滑らかで実在感のあるキャラ造形や挙動を実現している。実在の人物や逸話に神話や民間伝承を絡めた美しくもグロテスクな雰囲気が味わい深く、ボリュームはすくないが人の内面や過去の苦悩などが生々しく描かれる。戦闘は元々長丁場になりやすいシミュレーション系のシステムに頻繁なロードが挟まり、テンポの遅さが目立つ。成長要素として魔法や武器に熟練度の概念があるものの、下手に成長させるとMPや耐久度などのリソース消費が増えてしまい、恩恵より制約を感じやすい仕組みと言える。やや遊びにくい一方でビジュアルや世界観の表現力が秀でていて、異彩を放つ意欲作に仕上がっている。

本作の音楽を担当するのは菊田裕樹氏。当時サクノスに所属していた、同社の設立者であり代表である。本作では総監督として企画から脚本、音楽まで幅広く手がけている。本作ではホラーの雰囲気に合わせて楽曲の主張は控えめで、環境音や物静かなで不気味な劇伴を中心とする。戦闘曲も独特な静けさがあるが、笛やカリンバと思しき楽器を用いてプリミティブでエスニック感のある響きを生み出している。また、オープニングやエンディングにはイギリスのソプラノ歌手や合唱団を起用している。サウンドトラックにはボーナストラックとして一部楽曲のライブ演奏版も含めて収録されている。

ラスボス戦で流れるのがこの曲である。不幸と狂気と執念が絡み合い、女人と蜘蛛が融合したようなおぞましい怪物と対峙することになる。一見、ラスボス戦の曲というには妙に煌びやかで穏やかな聴き心地があるが、高音を軸として繊細に音を刻んでいくうちに、かえってこれ以上ないくらいにラスボス戦のシチュエーションにぴったりな印象を与える。主旋律の裏でせわしなくカリンバの指で弾いたような伴奏が奏でられ、シンセオーケストラが悠々と寄り添うことで、独自の神秘と昂揚感を漂わせる。ひとしきりフレーズを終えてしばらくパーカッションのみで溜めた後、1分12秒からパンフルートに似た透き通った笛の音が聴こえるようになり、いっそう霊妙な雰囲気を醸し出す。1分46秒から笛を低く鳴らして伴奏に出番を与えるが、2分18秒には急に伴奏の流れを止めて笛に見せ場を託す。2分50秒にはまた大きく変わってピアノとグロッケンシュピールを巧みに重ね合わせながらじわじわと盛り上げていく。3分6秒あたりで束の間だけ溜めた勢いを開放し、やがてすぐにループに入る。まるで催眠術にかけられるかのような忘我の恍惚感がある一曲である。

息を吞むというか、心が呑まれるような感じのする曲ですね。