大迫杏子作曲、2の『黒衣の円舞曲』。ミュベール関連のイベントで流れます。
百合とダークファンタジーの濃厚な世界観が特徴のよるのないくにシリーズのうち、ナンバリング2作目として登場した本作。人間と邪妖が絶えず争い、教皇庁が絶大な権力を握る世界を舞台に、教皇庁直属の騎士・アルーシェは、幼馴染の巫女・リリアーナを護衛する途中で落命するも、体内に妖魔の血を注ぐことで人工的な半妖として蘇生し、望まぬ力を宿して行方不明になったリリアーナを探すことになる。暗澹とした作風はそのままに、本作からは戦闘を手助けする従魔の他に、複数のヒロインのなかから一人選んで共闘するリリィというシステムが導入された。親密度に応じて発生する各ヒロインとのドラマも充実していて、少女同士の瑞々しいやりとりを楽しむことができる。物悲しく壮大な雰囲気が徹底された仕上がりとなっている。
本作の音楽を担当するのは浅田靖氏、浅野隼人氏、阿部隆大氏、阿知波大輔氏、大迫杏子氏、富沢泰氏、古川亮氏、柳川和樹氏、矢野達也氏、djseiru氏の十名。このうち浅野氏、阿知波氏、柳川氏(いずれも当時ガストに所属していた)は前作から引き続き作曲しているが、残り七名はシリーズ初参戦である。大勢の作曲家たちを抱えつつ、本作のサウンドは一貫して陰鬱で荘厳なスタイルを追求している。ゴシック調を思わせる艶やかで華美な曲調が多いなか、戦闘曲はハードなエレキギターの音色を取り入れるなど、シチュエーションごとにメリハリが効いた出来栄えになっている。サウンドトラックはプレミアムボックスに同梱されている。
ヒロインの一人・ミュベールのテーマとして流れるのがこの曲である。アルーシェにとって学園時代の先輩であり、教皇庁に入ってからも道を同じくする憧れの騎士だが、人工的な実験と拷問の末に妖魔に堕ちた経緯を持つ。栄えある騎士時代の光と、堕落した妖魔時代の闇という相反する二つの性質を表現するにあたって、ピアノソロから始まるワルツでメランコリックに彩る。はじめは淑やかに展開するが、徐々にストリングスを伴って盛り上がると、華麗でありながら退廃的な雰囲気が漂うような、独特な憂いを感じさせる。特に50秒手前からのサビは、優雅であると同時に張り裂けんばかりの悲壮感に満ちていて、曲全体を貫く切なくも凛々しい響きをいっそう深く印象付ける。強く、儚く、美しくの三拍子が見事に揃った一曲である。
ミュベール戦の戦闘曲は矢野さんがアレンジしていて、協奏曲風の壮大なオーケストラが魅力です。『Danza de blanco』(意味はスペイン語で「白の舞踏」、ゲーム内のサウンドテストでは『境界での相剋』表記)、あわせてどうぞ。