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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#275 『滅びし煌めきの都市』(下村陽子/聖剣伝説 LEGEND OF MANA/PS)

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スクウェアがおくるアクションRPG聖剣伝説LOMより、

下村陽子作曲、『滅びし煌めきの都市』。煌めきの都市で流れます。

聖剣伝説シリーズのうち、ナンバリングとは趣向を変えたスピンオフ作品として登場した本作。夢から目覚めた主人公は、マナの女神の呼び声に従うようにして世界を形作っていくことになる。プレイヤー自身の手で何もないワールドマップに街やダンジョンを配置し、自分好みの箱庭世界を構築できるランドメイクシステムが最大の特徴である。ストーリーはフリーシナリオ形式で宝石泥棒編、エスカデ編、ドラゴンキラー編の三つを中心に、1話完結型のものがぜんぶで68個用意されている。革新的なシステムとどこか哲学的でシュールな世界観とが相まって、上質な奥深さを持つ仕上がりとなっている。後にHDリマスター版がスイッチ、PS4、PC、アプリ向けに登場した。

本作の音楽を担当するのは下村陽子氏。当時スクウェアに所属していた作曲家で、本作においてはすべての作曲を一人で手がけている。氏は聖剣伝説シリーズについては本作が初参戦であるが、以降もHOMやROMといったナンバリング以外の作品を多く担当している。絵本のようなファンタジー世界を表現するにあたって、温かみのある民族音楽調の楽曲が多いなか、戦闘曲は一転して重苦しいロックサウンドが揃っている。サウンドトラックは主題歌も含めて収録されているオリジナル盤のほか、各種アレンジアルバムも存在する。

煌めきの都市で流れるのがこの曲である。宝石を核として生きる種族・珠魅の存亡を巡る物語を描いた宝石泥棒編のうち、物語を締め括る最後のダンジョンとして訪れることになる。かつて栄華を極めた珠魅たちによってつくられた集落で、絶滅の危機に瀕した今ではすっかり廃墟と成り果てている。そうした廃都を彩るにあたって、ゆったりとしたピアノの音色と、胸を引き裂くような悲痛なストリングスの音色のアンサンブルが、街の風景と種族の命運を象徴的に表現している。退廃的でありながらとても聴き心地が良く、物悲しいだけに留まらない情熱を秘めている。とりわけ1分過ぎでは、短く音色を区切ってぽろぽろと零れ落ちるようなフレーズを奏で、1分18秒ではさらにピチカート(指で弦をはじく奏法)を用いて躍動的な響きを強める。風前の灯火のように儚く、それでもなお生気を感じさせる一曲。

エピローグでは『涙色した輝きの…』というこの曲のアレンジが流れますが、そちらはオルゴールの音色とバックコーラスがよく映える一曲です。あわせてどうぞ。

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