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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#832 『Singularity』(増岡郷太/ペルソナ5 スクランブル ザ ファントム ストライカーズ/NS・PS4)

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アトラスとコーエーテクモがおくるアクションRPGペルソナ5スクランブルより、

増岡郷太作曲、『Singularity』。沖縄ジェイルで流れます。

ペルソナ5の続編にしてシリーズ初のアクションRPGとして、無双で知られるコーエーテクモと共同で開発された本作。前作から約半年後、主人公は夏休みに怪盗団の仲間たちと再会するも、時を同じくして全国で謎の改心事件が相次いで発生、異世界で出会った人工知能の少女・ソフィアを仲間に迎えて再び世直しに奔走することになる。東京はもちろん、キャンピングカーで仙台や札幌など全国を周遊することになり、物語の肝となる新たな異世界・ジェイルはパレスとは異なり都市を丸ごと模している。大量の敵を薙ぎ払う無双らしさと、属性相性で1MOREや総攻撃を狙うペルソナらしさを兼ね備えたハイブリッドな戦闘システムが特徴で、バトンタッチで操作キャラを切り替えることもできる。学園要素やコープなどの交流は限られているが、個性豊かな新キャラと怪盗団のその後を描いた新シナリオ、新機軸のアクション性とが相まって、スピンオフではなく正統続編として手堅くまとまった仕上がりとなっている。後にSteamに移植された。

本作の音楽を担当するのは赤羽大夢氏、喜多條敦志氏、比良彩那氏、増岡郷太氏、目黒将司氏。編曲のみの参加でMASA氏も携わっている。目黒氏は当時、喜多條氏は現在もアトラスに所属している作曲家で、それ以外はコーエーテクモ所属の作曲家である(MASA氏のみ退社済み)。なかでも比良氏は本作がデビュー作と思われる。本作では過去曲のアレンジ・新曲ともにペルソナ譲りのスタイリッシュなサウンドが中心となっている。特にボーカル曲はおなじみ目黒氏と喜多條氏のみならず増岡氏も、両氏の作風を尊重した存在感のある熱いナンバーを書き下ろしている。サウンドトラックは限定盤に付属されている。

沖縄ジェイルで流れるのがこの曲である。ジェイルは先述の通り、実在の都市(東京なら渋谷、北海道なら札幌など)を模しているが、沖縄だけ架空の島が舞台で、ジェイルも薄気味悪い廃墟の研究所を模しているなど、異質な印象が強い。物語上の転換点でもあるそんな場所で流れるこの曲は、嫌に不気味な、それでいて幻想的な美しさを誇るイントロから始まり、バイオリンの痛ましい旋律を伴ってじりじりと勢いを蓄える。1分を過ぎたあたりで、機は熟したと言わんばかりにエレキギターの轟音が鳴り響くと、退廃的だけど情熱的な曲調へと変遷し、2分手前で音数を一気に絞って静けさを演出するのも束の間、続くサビをいっそう悲劇的に盛り上げる。廃れた研究所に残された、触れてはならぬ真実に触れる感覚を、心を抉るほどの臨場感をもって表現した一曲である。

曲名は非凡や風変わりという意味で、ジェイルの異質さを考えるとそのままでも通用しそうですが、当の研究所で人工知能を扱っていた点を踏まえると、きっと技術的特異点(AIの能力が人類を凌駕する時点)のことでしょうね。素晴らしいネーミングセンスです。