作曲家について語るコラムです。
vol.013で扱うのは目黒将司(めぐろ・しょうじ)氏。
代表作は「ペルソナ」「真・女神転生」など。
なお、記事に記載された内容は2019年6月22日現在のものです。
まずは一曲。
www.youtube.com『Reach Out To The Truth』(ペルソナ4/PS2/2008年)
P3で大幅な方向転換し、P4でシリーズ人気を決定付けたペルソナシリーズの代表曲であるこの曲は、目黒氏にとっての代表曲でもあり、平田志穂子氏が華麗に歌い上げる4の通常戦闘曲である。ポップでスタイリッシュな作風に生まれ変わったシリーズを象徴するかのごとく、シャープなギターリフから始まり、そこに息を吸うような何気なさでクールな英語ボーカルが加わると、サビに向けて開放感たっぷりに盛り上がっていく。悩みや苦しみを抱えつつ、それを乗り越えんとする若者たちの生き様を見事に表現した一曲である。
目黒将司氏、1971年生まれ、東京都出身の作曲家。得意楽器はギター。トロンボーンの演奏経験もある。幼少期からエレクトーンなどの楽器に親しみ、高校時代にはバンドを結成していた。大学卒業後、1996年にアトラスに入社。同年に発売された「女神異聞録ペルソナ」(1996年)にて作曲家デビューを果たす。同作はアトラスの看板作品である女神転生シリーズの派生作であり、後に革命的な人気を誇るようになるペルソナシリーズの第1作目である。目黒氏はここで青木秀仁氏や沖邊美佐紀氏といったアトラスの先輩作曲家たちや、目黒氏の前年に入社して同じく同作がデビュー作である土屋憲一氏とともにコンポーザーを務めた。従来の女神転生にみられるオカルトテイストに、等身大の少年少女たちが紡ぐジュブナイルものを組み合わせることで、同作の楽曲はいずれもおどろおどろしくも熱くて格好良い、ペルソナサウンドの原点ともいうべきものが揃っている。
www.youtube.com『ベルベットルーム』(女神異聞録ペルソナ/PS/1996年)
ベルベットルーム、それは夢と現実、精神と物質の狭間の場所。ペルソナシリーズに共通して登場する拠点であり、主としてペルソナ合体をおこなうことのできる、哲学的な雰囲気を纏った部屋である。そこで流れるこの曲は、もっぱら『全ての人の魂の詩』という題で幾度も幾度もアレンジされ続ける一曲である。簡素で雅やかなピアノの伴奏に、包み込むような優しさにあふれた女性コーラスが響き渡ることで、その耳心地の良いハーモニーが、「もう一人の自分」であるペルソナと真摯に向き合うための精神的余裕を与えてくれる。後にこれを目黒氏自らが戦闘曲にアレンジした『全ての人の魂の戦い』がペルソナ3に登場し、こちらも圧巻の出来栄えである。
新人ながらもシリーズの顔とも言うべき曲をつくりあげた目黒氏は、その後同じく女神転生の派生作である「デビルサマナー ソウルハッカーズ」(1997年)で再び実力を示す。さらに1999年にはアトラスの完全新規タイトルとして3Dアクションアドベンチャー「魔剣X」(1999年)および移植版の「魔剣爻」(2001年)の作曲を、すこし前にアトラスに移籍してきた緒方貴宏氏とともに担当する。こうして順調にキャリアを積んでいった目黒氏は、2003年に、実に9年ぶりとなる待望のナンバリングタイトル「真・女神転生III NOCTURNE」のサウンドを土屋氏と田崎寿子とともに手がける。それまでのメガテンシリーズは増子司氏が単独で作曲していたが、作曲陣が入れ替わったことにより、ゲーム自体にも大きな方向性の転換があったのに加え、音楽性にも変化がみられた。退廃的な作風をある程度継承しつつ、目黒氏の得意とするハードなギターサウンドがふんだんに詰め込まれていて、通常戦闘曲は状況に応じて7パターンのサビが用意されているなど、非常に気合いの入った仕上がりとなっている。
www.youtube.com『スタッフロール』(真・女神転生III NOCTURNE/PS2/2003年)
上述の『ベルベットルーム』でみられるような柔らかなピアノの音色と、血気盛んなギターの旋律とが綺麗に融合したのが、同作のエンディングで流れるこの曲である。主人公が悪魔になるという衝撃的な展開、壊滅した東京を舞台に新たな世界を創造するという今までにない設定などと相まって、シリーズでも異色作として知られる同作だが、この曲はそれらを越えて最後まで辿り着いたプレイヤーをいたわってくれるような穏やかな曲調が印象的である。荒々しく響くはずのエレキギターも、ピアノの淑やかな音使いに溶け込んでセンチメンタルな雰囲気を漂わせ、エンディングの余韻に浸るのにぴったりな仕上がりとなっている。
ちなみに氏は同作に追加要素を搭載した期間限定生産の「真・女神転生III NOCTURNE マニアクス」(2004年)の新曲の作曲も担当した。続いて氏は「DIGITAL DEVIL SAGA アバタール・チューナー」(2004年)、「アバタール・チューナー2」(2005年)の二部作を手がけ、ライトユーザーの開拓を目指した作品にふさわしいクールなサウンドをつくりあげる。また、それらとはまったく違うジャンルであり、他に類を見ないSF外科アクション「超執刀 カドゥケウス」(2005年)にもコンポーザーとして参加し、スリリングな手術シーンに見合った緊張感あふれる楽曲を生み出す。2006年にはソウルハッカーズ以来久々の新作である「デビルサマナー 葛葉ライドウ対超力兵団」を担当し、続編の「アバドン王」(2008年)とあわせて、和風レトロなサウンドを取り入れることで、大正時代を舞台とした独特な世界観を表現した。
また、2006年はこれとは別にもう一つ、目黒氏にとってもアトラスにとっても大きな見せ場となるビックタイトルが発売された年である。その名も「ペルソナ3」(2006年)であり、前作2(罪・罰)にこそ氏はほとんど携わらなかったが、同作では一曲除きすべて単独で手がけている。陰鬱な雰囲気を受け継ぎつつ、学園生活にも重きを置くことで、新規ファン層を獲得し後の4や5の基礎となるようなライトな作風にシフトした同作において、目黒氏の音楽が果たす役割も非常に大きく、氏の名前と実力を内外に知らしめることになる。
www.youtube.com『Mass Destruction』(ペルソナ3/PS2/2006年)
今でこそボーカル入りの戦闘曲はそれほど珍しくはないが、発売当時は凄まじい衝撃をもって迎えられたこの曲は、同作の通常戦闘曲である。川村ゆみ氏の鮮やかな歌声に、Lotus Juice氏のノリノリなラップとが組み合わさったリズミカルなディスコナンバーで、大量破壊を意味する物騒な曲名にふさわしいパワフルなインパクトを誇る。歌はもちろん、伴奏や間奏部分もとてもスタイリッシュで、その洗練された音使いは、ペルソナシリーズの新たなる幕開けをこれ以上ないほど完璧に表現している。以降のシリーズサウンドのスタンダードを築くだけでなく、戦闘曲にボーカルを積極採用するというゲーム音楽界全体のトレンドをも創造した一曲である。
同作以降も氏の快進撃は留まることを知らず、「ペルソナ3 フェス」(2007年)や「ポータブル」(2009年)、さらには「ペルソナ4」(2008年)と「ザ・ゴールデン」(2012年)などで、次々とその手腕を発揮していく。シリーズ人気を受けてメディアミックスが盛んになり、テレビアニメ版や劇場版が登場すると、それらの主題歌や劇伴の作曲をも務め、ますます活躍の幅を広げるようになる。と同時に、「真・女神転生 STRANGE JOURNEY」(2009年)や「キャサリン」(2011年)など、本分であるゲームの仕事にも引き続き精力的に取り組む。
「ペルソナ5」(2016年)の登場まで、しばらくペルソナシリーズは過去作のリメイクや格ゲー・音ゲー化(2012年の「ペルソナ4 ジ・アルティメット イン マヨナカアリーナ」および2015年の「ペルソナ4 ダンシング・オールナイト」)に乗り出すが、ここでも目黒氏は喜多條敦志氏とともに、ときに過去の曲のアレンジをしながら新曲を生み出していく。2015年には、サウンドに伊藤賢治氏を起用したことで話題を集めた「デビルサバイバー2」(2011年)のアップグレード版にあたる「デビルサバイバー2 ブレイクレコード」の追加曲の作曲を担当し、伊藤氏と目黒氏の楽曲が一本で楽しめる夢のような仕上がりとなっている。同作では突如襲ってきた未知の生命体・セプテントリオンと、人類の生き残りを賭けて戦うことになるが、それに加えて後日談として新たな侵略者・トリアングルムとも命を賭けて戦うことになる。
www.youtube.com『トリアングルム』(デビルサバイバー2 ブレイクレコード/3DS/2015年)
追加シナリオのトリアングルム編において、トリアングルム戦で流れるのがこの曲である。セプテントリオン戦で流れる『セプテントリオン』(伊藤氏による)と比較して、そちらはピアノとギターが美しく調和しているのに対し、この曲はイントロからアウトロまで全編ギターで奏でられる純粋なロックナンバーとなっている。暴力的で嗜虐的にすら感じられる疾走感たっぷりの轟音は、五臓六腑はおろか、脳髄にまで染み渡るような迫力に満ちていて、何が何でも死線を越えんとする覚悟を決めさせてくれる。目黒氏の数ある作曲のうち、ボーカルなしのインストゥルメンタルのなかでは規格外の完成度を誇る一曲であろう。
2016年、ようやく待望の「ペルソナ5」が発売されると、期待通り、あるいは期待以上に数々の名曲を世に送り出し、ゲームも音楽も両方とも、国内外問わず高評価を得ることになる。同作では怪盗モノをモチーフにしていることから、サウンドの方向性としては今までのを踏襲しつつ、新たに実験的にアシッドジャズを取り入れている。あくまで高校生を主人公にしたジュブナイル作品であるため、アシッドジャズといっても若干緩めの作風を追求したらしく、大人っぽいお洒落さと、まだ十分に大人にはなり切れていないキザな雰囲気との絶妙なバランスを保っている。また、ストリングスも多く用いるようになり、シリーズサウンドの進化を感じさせる仕上がりとなっている。
P4同様にP5もまた音楽ゲーム化され、「ペルソナ5 ダンシング・スターナイト」(2018年)として登場すると、音楽が目玉ということもあり、様々な編曲者によって多種多様なアレンジが生み出される。目黒氏はそのなかでセルフアレンジをいくつか手がけていて、原曲にない新たな魅力を自らの手で発掘することに成功している。
www.youtube.com『Life Will Change ATLUS Meguro Remix』(ペルソナ5 ダンシング・スターナイト/PS4・PSV/2018年)
おなじみP5の代表曲『Life Will Change』をアレンジしたのがこの曲である。原曲からテンポをあげてキーもあげて、よりファンキーな雰囲気を前面に押し出すことで、踊り出したくなるようなグルーヴを醸し出している。Lyn氏のメリハリに富んだソウルフルな歌声は健在で、英語による歌詞と相まって、間違った正義を断罪する怪盗団の雄姿を華麗に描き出している。原曲の魅力を生かしつつ、ダンサブルな中毒性をも引き出した一曲である。
目黒氏はアトラスに所属し続けて20年以上になるが、ゲーム音楽の既存の枠組みにとらわれないチャレンジングな楽曲づくりを通じて、ペルソナといえばこの人、アトラスといえばこの人、というほどの知名度を築き上げることに成功している(※追記:その後の情報で、2021年9月末にアトラスを独立し、フリーランスへ)。今後氏が巻き起こすであろう旋風にますます期待がかかる。
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自分の書いた曲のギターパートはだいたい自分が演奏している、というのがすごいですよね。参考までに、今まで格納してきた目黒さんの楽曲をどうぞ。