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#1051 『Axe to Grind』(喜多條敦志/ペルソナ5 スクランブル ザ ファントム ストライカーズ/NS・PS4)

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アトラスとコーエーテクモがおくるアクションRPGペルソナ5スクランブルより、

喜多條敦志作曲、『Axe to Grind』。通常戦闘曲の一つ。

ペルソナ5の直接的な続編として、無双で知られるコーエーテクモとの共同開発作品にあたる本作。前作から約半年後の夏休みに仲間たちと再会した主人公は、新たに各地で相次ぐ異世界絡みの事件を解決すべく、心の怪盗団を再結成してキャンピングカーで全国を巡ることになる。シリーズ初のアクションRPGで、戦闘システムは大量の敵を一掃する無双スタイルに、弱点攻撃や総攻撃、バトンタッチ、意外と手ごわいゲームバランスなどペルソナらしさが融合している点が特徴である。シナリオ面では前作で加入時期の遅かったメンバーも最初から一緒に行動できるうえ、人工知能の少女や公安警察の大人など一癖ある新キャラが追加されていて、敵対キャラの描き方も含め前作とは異なる切り口の物語を楽しめる。カレンダーシステムはほぼ形骸化して交流要素も縮小されたが、前作の魅力を順当に受け継ぎ、新たな面白味を加えた仕上がりとなっている。後にPCに移植された。

本作の音楽を担当するのは赤羽広夢氏、喜多條敦志氏、比良彩那氏、増岡郷太氏。編曲のみでMASA氏が参加しているほか、前作で作曲した目黒将司氏の楽曲の一部がアレンジ収録されている。アトラス陣営からは目黒氏(当時)と喜多條氏(現在も所属)、コーエーテクモ陣営からはMASA氏(当時)と赤羽氏、比良氏、増岡氏(いずれも現在も所属)という内訳である。おなじみの洗練された作風はそのままに、新曲もアレンジも軒並みパワフルな楽曲群が揃っていて、特に戦闘では動きが限られたターン制から常に動き回るアクションに変わったことを受けて、音楽を聞かせるために音量を大きめに調整しているそうである。また、既存曲のアレンジでも歌声を流用せず新録していたり、効果音面では訪れる都市ごとに別々の生活音や環境音を用意したりするなど、随所でサウンドへのこだわりが見受けられる。サウンドトラックは限定盤に同梱されている。

通常戦闘で流れるのがこの曲である。通常戦闘では主に『What you wish for』(同じく喜多條氏の作曲)かこれがランダムで流れる。クールな情熱を醸す前者と比べて、この曲は共通した雰囲気を持ちながら、より大人びた昂揚感を漂わせている。ストリングスが印象的な爽快なイントロから始まり、どこか官能的な響きを帯びたベースに心揺さぶるLyn氏の歌声が重なることで、その魅惑の組み合わせが成長した怪盗団の戦いぶりを鮮やかに印象付ける。47秒あたり、サビで曲名を含むフレーズ("Go find an axe to grind, I take hearts but not the mind")を高らかに歌い上げると、次に歌詞が入るまでの間奏をエレガントな弦楽器とエッジの効いたギターで華やかに彩る。二度目のサビが終わる1分45秒頃からは落ち着きのあるジャズテイストに趣向を変えるが、徐々に元の曲調に回帰して再び鮮烈な昂揚感を生む。絶妙に刺激的な臨場感に満ちた一曲である。

12曲まとめていただいたリクエストの第9弾です。axe to grindは直訳だと「研ぐ斧」ですが、慣用句で、ある男が自分の斧を研ぐのに、言葉巧みに少年をおだてて代わりにやらせた(甘い言葉で釣って面倒事を押し付けた)逸話から、have an axe to grind=「腹に一物ある、下心がある」という意味です。記事で触れた『What you wish for』、それからサウンドづくりのインタビュー記事もあわせてどうぞ。

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