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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#961 『Will of the Scribes』(Darren Korb/Pyre/PC・PS4)

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Supergiant Gamesがおくるパーティ型RPG・Pyreより、

Darren Korb作曲、『Will of the Scribes』。Oralech関連のシーンで流れます。

BastionやTransistorで知られるアメリカのインディーゲームスタジオ・Supergiant GamesのファンタジーRPGとして登場した本作。文字の読み書きが認められない国で識字の罪により追放された主人公は、煉獄の地・DownsideにてNightwingsと呼ばれる組織のリーダーとなり、同じ境遇の仲間とともに伝統的な儀式・Riteを通じて自由を勝ち取ることになる。Riteとは3対3のチーム戦でオーブをパスし合いながら敵陣の篝火(ゴール)を目指す儀式のことで、アクション要素とスポーツ要素、さらには護符やスキルといったゲーム的な要素が融合したハイファンタジー調のバスケのような戦闘システムが特徴である。ゲームオーバーの概念が存在せず、勝っても負けても、結果に応じて物語が分岐しながら進行していく。暗澹とした独創的な世界観と戦略性あふれるゲーム性が魅力的な仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのはDarren Korb氏。Supergiant Gamesに所属するアメリカ出身の作曲家で、本作に限らず同スタジオの作品すべてにおいて、作曲も効果音制作もレコーディングも、ときには一部の歌唱もこなしている。本作でもBastionなどでおなじみのシンガーソングライター・Ashley Barrett氏とともにボーカルを務めている。重厚かつ魔術的な作風を彩るにあたって、本作ではギターを軸に据えたアコースティック寄りのファンタジーサウンドが揃っていて、グラフィックともども非常に奥深い没入感を生み出している。サウンドトラックはSteamのDLCやBandcamp、Supergiant Gamesの公式ストアなどで発売されていて、アレンジ盤も存在する。

Oralechのテーマ曲として、彼との会話シーンやRite(Liberation Riteを除く)で流れるのがこの曲である。主人公率いるNightwingsのかつてのメンバーで、裏切りに遭ったことで胸中に深い憎悪と憤怒を抱える本作の最重要人物の一人だが、この曲はそうした彼の悲劇的な宿命をマンドリンの繊細な音色で余すことなく表現している。イントロから寂寥感たっぷりに響く撥弦の主旋律に、ずしんと沈み込むような重圧的で堕落的なベースが付き添い、穏やかで切ない曲調ながらも悲しみと怒りに燃えるかのごとき印象を与える。フレーズの反復が多いなかで、1分40秒頃で一旦流れが変わると、次にメインメロディーに回帰する2分10秒過ぎに数秒ほど無伴奏マンドリンによる情緒的なソロが奏でられる。きめ細やかな旋律と分厚い伴奏、対照的ともいえる両要素が絡み合うことで、幽玄な美しさを見事に引き出した一曲である。

物悲しさと重苦しさのバランスが絶妙でとても素敵です。ゲームは日本語には未対応で、テキスト量も多いのですが、読み応えがあってすごく雰囲気が上質です。オフボーカルとはすこし違いますが、サントラにアコースティック部分のみを抽出した特別音源もあるので、あわせてどうぞ。

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