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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1164 『ラストバトル』(多和田吏/ムーンクリスタル/FC)

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ヘクトがおくるドラマティックアクション・ムーンクリスタルより、

多和田吏作曲、『ラストバトル』(仮称)。ラスボス戦で流れます。

ヘクトによるファミコン末期の作品として登場した本作。シルスの村に住む少年・リッキィは、ある満月の夜、村に伝わる神秘の石・ムーンクリスタルを狙って村を襲撃した挙句に村人たちを攫っていった連中を追って戦うことになる。全7面構成でライフ制の横スクロールアクションで、攻撃やジャンプなどの基本的な操作はもちろん、しゃがんだり壁や枝によじ登ったり二段ジャンプしたりといった様々なアクションが用意されている。特筆すべきは動きの滑らかさとビジュアルの美麗さで、キャラモーションやステージ背景の描き込みの秀逸さに加えて、ステージ間の幕間などでみられる会話デモでは緻密なドット絵アニメーションを楽しむことができる。ライフは初期状態だと三つで、アイテム入手で最大値をあげることができるほか、ピンチに陥る(ライフが残り一つになる)と一部の攻撃が強化される要素が含まれる。ファミコン末期の作品らしい手堅く歯応えのある仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは多和田吏氏。スタッフロールではT. TAWADAと記載されている。ヘクト製の作品では本作発売の翌年に氏の代表作となるイーハトーヴォ物語を手がけたことで知られている。本作では満月や死者といったダークなモチーフが頻出するのに合わせて、音楽に関しては幻想的な響きを帯びた切なくメロディアスな雰囲気が徹底されている。各ステージにBGMが用意されているだけでなく、幕間でもシーンに応じて個別の曲があてがわれるなど、物語への没入感を高める楽曲群が揃っている。サウンドトラックは未発売のため、曲名は便宜上の仮称とする。

ラストバトルで流れるのがこの曲である。第二形態まであるが、前半戦も後半戦も同じ曲が流れる。ムーンクリスタルの力を引き出して異形の者と化したラスボスとの最終決戦を彩るにあたって、開始早々に非常に歯切れの良いパーカッションを鳴らすことで、瞬時にして決戦の気運を盛り上げてくれる。直後にメインメロディーが入ると、せわしなく音階を行き来させて凄まじい悲哀を漂わせる。終始畳みかけるような悲愴感に満ちていて、1ループ11秒で完結するという短さを鑑みても、一向に色褪せることも中弛みすることもない不撓の決意を感じさせる。満月が見守るなかでの悲劇の激闘というシチュエーションを余さず表現した一曲である。

曲とシチュエーションの親和性が抜群ですね。ちなみに第一形態から第二形態に移るとき、一旦BGMが止まってから再度流れ始めますが、それが演出効果を高めている気がします。