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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1269 『氷のダンジョン』(山崎憲司/ドラえもん3 魔界のダンジョン/PS)

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藤子・F・不二雄著の漫画「ドラえもん」を原作とする、

エポック社がおくるダンジョンRPG・魔界のダンジョンより、

山崎憲司作曲、『氷のダンジョン』(仮称)。氷のダンジョンで流れます。

エポック社がPS向けに展開していたドラえもんのゲーム化作品群の第3弾にあたる本作。今度ののび太ドラえもんは、家出の行き先を求めてひみつ道具で繋がった地下洞窟を探検するうち、謎の祭壇と未知の生物を見つけ、やがて地球を侵略せんとする魔人の陰謀に巻き込まれることになる。シリーズ初のローグライクダンジョンRPGで、はじめはのび太のみだが、物語を進めると他四人も操作できるようになる。基本的なゲーム性はジャンルのスタンダードに則っているが、道中のアイテムがひみつ道具だらけであるほか、拠点となるひみつ基地にて冒険に役立つ施設をつくる独自要素が含まれる。のび太なら倉庫、ジャイアンなら工場(道具の売買や装備の強化ができる)といったようにキャラごとに担当する施設が異なり、拡張することでさらに恩恵を得られる。装備の強化が回数無制限である点や、玉石混淆とはいえひみつ道具が便利である点など、攻略しやすくする配慮が充実していて、ローグライク特有のシビアさは薄められている。その一方でクリア後のやり込み要素もしっかり搭載されていて、原作の雰囲気とジャンルの特色がブレンドされた仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは山崎憲司氏。スタッフロールではサウンドディレクターとしてのみ名を連ねている。スタッフロール中にはそれ以外にサウンド系の役職やスタッフが記されていないため、氏が作曲や効果音全般も含めて統括的に手がけたものと考えられる。90年代頃にフリーでゲーム音楽制作に携わっていた作曲家である。ドラえもん関連の作品で作曲するのは本作が初のようである。本作では主にハープやハーモニカなどを用いて明るく冒険心をそそるような楽曲が取り揃えられていて、ものによってはシンセ系を駆使することで幻想的なムードが漂っている。また、楽曲のなかには主題歌のインストアレンジが含まれる。サウンドトラックは未発売のため、曲名は便宜上の仮称とする。

氷のダンジョンで流れるのがこの曲である。物語後半に訪れるダンジョンで、名前の通り氷に覆われている。他のダンジョンとは一線を画する仕様として、拾えるアイテムがお金か古いドラ焼き(いわゆる満腹度回復アイテムだが、先月もしくは去年のドラ焼きなので要注意)に限られている点が特徴である。氷の景観とも相まって侘しくなるシチュエーションを表現するにあたって、寒々としたフルートと不気味な緊迫感のあるストリングスが象徴的に響き渡る。冒頭から30秒近く似たフレーズを反復して、聴いていると思わず底冷えしそうな感触を十分に根付かせた後、やおらハーモニカの主旋律が加わるようになる。勇ましいようで泥臭いような奇妙な哀愁を湛えた音色によって、一種独特な味わい深さを生み出している。1分過ぎにはハーモニカに代わって木琴が入り、さらに1分37秒からは木琴に代わってシンセオルガンが入ることで、一定周期でメイン楽器を入れ替えつつ、常に変わることなく不穏さを保ち続ける。じわじわと寒気を誘うような一曲である。

ダンジョンに落ちている去年のドラ焼き、食べる勇気ありますか? 冷凍保存されていたと考えればいけるかな……。