VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1283 『Psyco Dive』(中河健/アルトネリコ 世界の終わりで詩い続ける少女/PS2)

www.youtube.com

ガストとバンプレストがおくるムスメ調合RPGアルトネリコより、

中河健作曲、『Psyco Dive』。ダイブ屋で流れます。

ガストとバンプレストの共同開発作品であるアルトネリコシリーズの第1弾にあたる本作。アル・トネリコと呼ばれる古代の巨塔が聳え、詩を紡いで超常の魔法を行使する人工生命体・レーヴァテイルが存在する異世界、ソル・シエールを舞台に、塔上層で騎士を務める青年・ライナーは、塔からあふれ出したウイルスに対抗する術を求めて旅立ち、やがてレーヴァテイルたちとともに世界の命運を決することになる。詩と少女と緻密な世界観設定が特徴のRPGで、通常のフィールド移動等は2Dクォータービューというオーソドックスなスタイルだが、少女たちの精神世界であるコスモスフィアに干渉(ダイブ)する際はテキストアドベンチャーに近い形式で進行する。作品全体に占める詩の割合が大きく、物語を盛り上げる劇中歌が多く挿入されるほか、実際に戦闘システムとして、詠唱に時間がかかる代わりに超火力の詩魔法を放つことができる。世界観の凝りように加え、少女たちが発する生々しい台詞や描写が印象的である。大筋やゲームそのもののつくりは王道寄りだが、特殊な味付けがされた意欲作に仕上がっている。

本作の音楽を担当するのは阿知波大輔氏、土屋暁氏、中河健氏。歌モノの作曲などに稲垣貴繁氏、志方あきこ氏、霜月はるか氏も携わっている。阿知波氏と中河氏は当時、土屋氏は現在もガストに所属する作曲家である。本作の肝となる詩の歌唱は、志方氏と霜月氏に加え、石橋優子氏とみとせのりこ氏が担当している(志方氏・霜月氏・みとせ氏が三人いるヒロインのそれぞれの歌唱担当で、石橋氏はサブキャラである酒場の女主人の担当であるため、メインボーカリストは前三名である)。本作の音楽というと、ヒュムノス語と呼ばれる本作のためにつくられた人工言語を用いた民族音楽風の歌曲が最大の特徴である。歌のイメージが強いなかで、インストゥルメンタルの楽曲も充実していて、繊細さが光るファンタジーSFの作風をよく捉えている。サウンドトラックについては、主にインスト曲を収録したオリジナル盤と、ヒュムノスコンサートという歌曲を収録したボーカル盤が存在する。

ダイブ屋で流れるのがこの曲である。上述の通り、少女たちの心を映す精神世界・コスモスフィアに干渉する行為をダイブといい、各地にあるダイブ屋を利用してダイブすると、彼女たちの内面を知るとともに新たな詩を習得するなどの恩恵を得られる。少女たちをより深く知ることになる、その前段階を彩るにあたって、まず冒頭で琴による上昇音階を奏でることで、非常に風流で心惹かれる響きを生み出す。続いてミステリアスな雰囲気を纏った鉄琴やコーラスが入ると、和風の範疇に収まらない独特な異国情緒を漂わせるようになる。10秒頃からアルファベットを一文字ずつ囁き出すと、ますます異国らしい神秘的な響きが強まっていく。そのまま似たフレーズを反復することで、まるで聴く者に何かしらの暗示をかけてトランス状態に陥らせてくれるような印象をもたらす。50秒過ぎでは囁き声が抜ける代わりにコーラスが存在感を増し、さらに1分10秒過ぎにはストリングスに出番が与えられ、先ほどまでとは一味異なる聴き心地を提供する。思わず搦め捕られてしまいそうになるほどの極上の没入感に満ちた一曲である。

アルファベットの読み上げ部分は、聴き取れる範囲だとA・R・T・N・O・R/A・R・T・N・E・L・I・Cかな? アルトネリコ(Ar tonelico)の綴りに近いけど微妙に違うような感じですかね。