VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1284 『Vibration』(山岡晃/KILLER IS DEAD/PS3・X360)

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グラスホッパーマニファクチュアがおくるアクション・KILLER IS DEADより、

山岡晃作曲、『Vibration』。ヴィクター戦の前半で流れます。

GHM製の新作殺し屋アクションとして、愛と処刑のファンタジーという謳い文句のもとで登場した本作。裏社会を中心に月面開発や人体改造が進む世界を舞台に、処刑事務所に所属する女好きの処刑人のモンド・ザッパは、与えられた任務に応じて罪人には死をもたらし、美女には愛を囁くことになる。陰影をどぎつく強調したトゥーン調のグラフィックが印象的なアクションゲームで、右手で刀を操り、左手で腕と一体化した換装武器のマッセルバック(銃やドリルなどに変形可能な得物)を駆使して戦っていく。いわゆる切った張ったの大立ち回りを演じる通常ミッションと、美女をうまく見つめてムードを高めて褒美を得るジゴロミッションがあり、B級映画的な荒唐無稽なアクションとメロドラマを追体験することができる。シナリオは良くも悪くもノリ重視で、全体のボリュームは控えめだが、例に漏れず奇抜な味わいが感じられる仕上がりとなっている。後に追加要素を加えてPCに移植された。

本作の音楽を担当するのは山岡晃氏。当時GHMに所属していた作曲家である。本作ではミュージックディレクターを務めている。氏のほかにスタッフロール上では追加の作曲担当としてMitsumi Akaishi氏、Takaaki Asakawa氏、Kengo Osada(長田健吾)氏ら20名近くがクレジットされている。一方で、メディアインタビュー等によると山岡氏がぜんぶ作曲しているという情報もあるため、ミュージックディレクターとして統括的に音楽制作に関わりつつ、すくなくとも主要な楽曲は氏が作曲したものと思われる。ハードなロック、スピーディーなテクノ、スリリングなオーケストラなど、ダークでマッドなファンタジーに見合った多彩なサウンドが揃っている。サウンドトラックについては、初回限定盤に一部楽曲を収録したものが同梱されていた。

ヴィクター戦の前半で流れるのがこの曲である。ヴィクターは1000階建ての超高層タワーから悪意の音を放出して世界を悪に染めようとする異形の音楽家である。狂った野望を持つ彼との戦闘を彩るにあたって、ドラムビートがよく目立つミステリアスなインテリジェントダンスミュージック風の曲調でじわりと気分を盛り上げてくれる。打楽器の音色がかなりはっきりと刻まれるなかで、シンセの音色はふんわり当てもなく漂っているかのような浮遊感あふれる響きがあり、独特なアシッド感のある聴き心地を生み出している。38秒でやけに胸騒ぎを誘うシンセストリングスの音色が入ると、それを皮切りに、48秒からはヒップホップ風のボイス、58秒からはさらに妙なグルーヴのあるスキャットが加わり、音を通じて酔いを催すような印象をもたらす。以降も止むことなくトリッピーな音色を奏で続ける。奇怪な魅力を湛えた一曲である。

なんというか……良い意味で聴いていると頭がくらくらします。癖になる良さがありますよね。