VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1302 『Opening Theme』(坂本龍一/L.O.L. Lack of Love/DC)

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ラブデリックがおくるRPG・L.O.L. Lack of Loveより、

坂本龍一作曲、『Opening Theme』。オープニングで流れます。

moonをはじめとするアンチRPGの作風で知られるラブデリック製の作品として登場した本作。人間の移住先に適う惑星を求めて辿り着いた異星にて、新たに誕生した謎の生物・ライフは、生き続けるために音と光を浴びてヘンタイを繰り返すことになる。各種台詞や説明等の文字情報を排し、目的やヒントといった誘導も提示されず、ただ目と耳を頼りに進めていく手探りなゲーム性が特徴である。主人公は誕生直後は矮小な存在だが、動物と交流してナカマを増やし、音と光を発するコスモボールと呼ばれる友情の証を貰うことで、ヘンタイしてより立派に成長することができる。動物同士で挨拶したり、ときに攻撃したりされたり、排泄、睡眠、ハラグアイ(空腹度)に応じて捕食したりするなど、生きるために必要なことをこなすうちに、やがて物語や世界観が浮かび上がる仕組みだが、最後まで掴みどころのないトーンを貫いている。そのため、自分なりに面白味を見出して咀嚼する能力が問われる。野性的とも芸術的ともSF的とも言える不思議な遊び心地を持つ仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは故・坂本龍一氏。音楽だけでなく作品全体のプロデュースについても、ラブデリックの西健一氏と共同で手がけていた。音楽界の巨匠たる坂本氏の起用は本作にとっての大きな目玉要素で、全編を通して不透明感の強い本作とは裏腹に、楽曲に関しては透明感と陶酔感の強いニューウェーブ系やアンビエント系のものが揃っている。作中では曲らしい曲は局所的にしか用いられず、無音ないしは環境音、効果音等で形作られるシーンが多いが、そうした演出が本作の雰囲気に色を添えている。サウンドトラックはゲームの発売直後に登場した。

オープニングで流れるのがこの曲である。オープニング映像では、宇宙空間を彷徨う船の唯一の船員であるロボットが、人類の居住に適した惑星を見つけて降下する様子が描かれる。その一連の流れを彩るにあたって、冒頭10秒ほどはさりげない信号音を発して、機械的な響き、SFらしいコンセプトを第一印象として与える。このとき、映像では宇宙船を真正面から捉えたものが映され、その時点では画が抽象的すぎて被写体が船だと判別しづらい(しいて言えばアメーバのような微生物に見える)。その後、高く澄んだピアノの音色が加わり、流麗さと悲壮さが入り混じった旋律を奏でると、ひたすら虚心に聴き入りたくなるような心地良さをもたらす。ピアノの周囲を包み込むように信号音やシンセパッドが響き渡ることで、聴いているうちに映像の内側に取り込まれそうなトリップ感を醸す。1分17秒でオルガンが入る頃には、映像で初めてロボットの姿が映り、まるで葬送曲を彷彿させるほど悲劇的だが、それと同時にかすかに希望を感じさせるアンビバレントな響きを生む。居住先を定めてロボットが頷く描写が入る2分23秒頃には、曲のほうでも連動して鐘が鳴り始め、いよいよ物語が動き出すのだと実感させる。曲の締め方は安らかだが、最後まで不穏さや憂鬱さは漂っていて、音が消えてもしばらく味わい深さが残り続ける。余韻嫋々たる一曲である。

先日の訃報にあわせてこの曲を紹介してほしいというリクエストをいただきました。心よりご冥福をお祈りします。OP映像もどうぞ。

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