VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1301 『タイトル』(湯浅稔/GUY -KILL THE TARGET-/PC98)

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ドアがおくるニュータイプシミュレーション・GUY -KILL THE TARGET-より、

湯浅稔作曲、『タイトル』(仮称)。オープニングデモで流れます。

上記動画の0:10から1:09まで。

有限会社ドアのデビュー作にあたる本作。遺伝子改造により生み出した戦闘生命体・BECTを用いて世界制覇を目論む悪の組織・ディノジーンのボスである主人公は、支配圏の拡大を目指しつつ、組織から脱走したGUYという名のBECTを抹殺すべく奔走することになる。ゲーム本編のみならず短い実写ビデオや写真集等が同梱されたセットの特撮モノで、プレイヤーが悪の結社側であるという異色の設定が特徴である。目的は5つあるセクタ(区域)の支配度を上げて制圧することで、支配度を上げるには各地にアジトを建設する必要がある。アジト建設に向けて資金や人手を集めるなかで、資金なら募金を呼びかけたり売血で稼いだり、人手なら誘拐したりして活動を進めていく。事あるごとにGUYが出現して妨害してくるため、これを退けるべくBECTを培養・強化し戦わせるという戦闘パートも含まれる。美人秘書を侍らせるお色気要素や、脅迫や色仕掛等の工作、悪の代わりに正義側を追い払う倒錯的な描写など、悪役ならではの展開を味わえる一方で、各種活動も戦闘も簡素で大味なつくりに留まっている。悪役体験シミュレーターとして独自色を放つ仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは甲斐浩昭氏と湯浅稔氏。当時Be2 Project(表記はBe-2projectとも)という会社に所属していたサウンドスタッフである。スタッフロールでは作曲も効果音もまとめて「サウンド」と記されていて、サウンドドライバの制作等も併せて手がけていたという。このうち湯浅氏はタイトル曲の作曲を担当し、残りは甲斐氏に一任していたそうである。本作では悪役に焦点を当てていることからか、すくなめの音数で焦燥を煽るタイプの楽曲が多く、絶妙な不穏さを感じ取ることができる。サウンドトラックは未発売のため、曲名は便宜上の仮称とする。

オープニングデモで流れるのがこの曲である。上記動画から確認できる通り、オープニング映像は世界観および物語の説明と制作者のクレジットを兼ねたもので、ゲームを本格的に始める前のウォーミングアップのような役割を果たす。夜の町並みを映した静止画、淡々と綴られる文章、同じく淡々と奏でられる音色の組み合わせで、しばらくの間は特撮モノのOPというよりミステリーか刑事モノに近い雰囲気を漂わせる。あえて起伏をつけない平板な曲調であるものの、絶えずずっしりとビートが刻まれることで、独特な緊迫感を保っている。やがて40秒過ぎ(上記動画の52秒頃)になると、やや高い音域で洒落たメロディーが奏でられるようになり、それまで事務的な語り口だったはずの文体にも変化が生じる。ここにきてようやく特撮らしい色が出始めるが、もう間もなく映像と曲は終わりを迎える。適度に興奮を感じさせてくれる一曲である。

この曲を紹介してほしいというリクエストをいただきました。このFM音源の程よい温度感、いいですよね。