スクエニがおくるバトルアクションRPG・コードエイジコマンダーズより、
谷岡久美作曲、『ミンタカ渓谷 ★』。夜のミンタカ渓谷で流れます。
スクエニ発のメディアミックス作品群であるコード・エイジシリーズの家庭用機向けタイトルにあたる本作。崩壊と再構成を繰り返す球内世界を舞台に、崩壊から免れるべく建造された方舟が謎の墜落を遂げたことをきっかけに、境遇の異なる四人の主人公が生き抜くための戦いに身を投じることになる。RPGと銘打つものの実質的にはステージクリア型の3Dアクションゲームで、遠未来終末SF群像劇の独創的な世界観を特徴とする。それぞれ攻撃ボタンが割り振られた左右の腕を武器として戦うなかで、戦い方次第で腕の形状が進化し、形状に応じたアクションや必殺技を放つことが可能である。道中にはオテロと呼ばれる白と黒で相対する生命体がいて、敵として倒すだけでなく腕に吸収することで、オテロショットという特殊技を繰り出せる。オテロショットの効果は様々で、遠距離攻撃から回復まで幅広く戦闘に活かすことができる。全体的にグラフィックは高水準だが、操作のレスポンスは緩慢で難易度にはムラがあるなどの調整の甘さがみられる。キャラごとの視点で進めるメインストーリーの他に、おまけ要素としてオテロを操作して敵と戦うミニゲームも収録されているが、総合的なボリュームは控えめと言える。世界観に凝った意欲作に仕上がっている。
本作の音楽を担当するのは谷岡久美氏と山中康央氏。谷岡氏は当時、山中氏は現在もスクエニに所属している作曲家である。このうちほとんどの楽曲は谷岡氏が作曲していて、山中氏の担当分はオテロ関連の数曲に留まる。本作の独特なSF世界を表現するにあたって、粘り強くフレーズを反復するストイックなテクノサウンドが多く取り揃えられている。なかにはオーケストラやクワイア、ピアノを印象的に用いたもの、さらには笛やカリンバを使ってかすかに民族音楽らしさを感じさせるものも存在する。また、ステージは昼夜で曲が切り替わり、曲名の末尾の「☆」は昼、「★」は夜を示す(作中のミュージックモードでは「白の時間」「黒の時間」と表記されている)。サウンドトラックはボーナストラック含め2枚組で収録されている。
夜のミンタカ渓谷で流れるのがこの曲である。最初に遊べる主人公であるジーン篇ステージ4、そして最後に遊べる主人公であるヘイズ篇ステージ5の舞台となる場所で、川の上流には白の群の拠点がある。昼の『ミンタカ渓谷 ☆』と類似したリズムパターンを持つが、キーとテンポが下がって楽器が一部変更されている。特に目立つのが出だしから執拗に響き続けるマリンバで、昼のバージョンは電子音を用いてサイバーな印象が強かったが、夜は一転してプリミティブな雰囲気が漂っている。13秒頃からチェレスタが音階を下っていくフレーズが入るが、マリンバの紡ぐループと微妙にずれるような、あえて不協和なペースを貫くことで、耳に引っかかる独特な響きを生み出す。25秒あたりでドラムが入ると幾分かリズムが取りやすくなるが、38秒にはチェレスタもドラムも一時離脱し、代わりにトライアングルが鋭い金属音を刻む。50秒過ぎでチェレスタとドラムが再度加わり、これで一通り楽器が揃ったように思えるが、1分17秒以降にもう一捻りある。昼のバージョンでは比較的早い段階で合流するが、夜のバージョンではここにきて満を持してピアノが登場する。ピアノ協奏曲を彷彿させる流麗なアルペジオが披露され、しばらく聴き浸らせてくれる。が、とりわけ秀逸なのは1分42秒でマリンバが再び姿を現すときに急激にムードが崩れゆく箇所で、この一連の変遷には傾れ落ちるような衝撃がある。奇怪千万な一曲である。
聴いているとふと思考が止まるというか、持っていかれるような感じがして、記事を書こうにも手間取りました。『ミンタカ渓谷 ☆』もあわせてどうぞ。