ナグザットがおくるビリヤードゲーム・ブレイクインより、
国本剛章作曲、『スタッフロール』(仮称)。スタッフロールで流れます。
ビリヤードを題材にした作品としてPCエンジン向けに登場した本作。主人公は密航した船でお目こぼしを得るべく、14人の乗船者たちとビリヤードで勝負することになる。定番の9ボールをはじめ、8ボール、ローテーション、カットゲーム、四球、ボーラードの計6種類の競技で遊ぶことができる。それぞれの競技は、狙い通りの動きを実現できるシミュレーションモードか、ミスや思わぬ力みなどランダム要素を取り入れたアクションモードで挑戦可能で、CPU戦はもちろん最大4人までの対人戦に対応している。CPUは実力の異なる男女7人ずつ、単に記号的な存在ではなく固有の顔グラフィック、名前、国籍、生年月日、職業や趣味など一通りのプロフィールが設定されている。また、CPUをコーチを付けてプレイ中にアドバイスを乞うこともできる。球を撞く強さやキューの位置などの基本に加え、押し引き・ジャンプ・マッセといった動作も再現でき、さらにアクションモードではミス軽減のためにチョークを使うひと手間があるなど、細かいところまでリアリティを追及している。通常競技のほかに課題に沿ってスーパープレイを決めるテクニックモードもあり、やり込み要素として楽しめる。総じて存分にビリヤードの醍醐味が感じられる仕上がりとなっている。
本作の音楽を担当するのは国本剛章氏。スタッフロールではKinoko-Kunimoto(キノコ国本)名義でクレジットされている。80年代頃から主にハドソン製の作品で頻繁に楽曲を提供してきた作曲家である。これまでアクションやシューティングといったオーソドックスなジャンルを手がける機会が多かったが、本作は趣向を変えて現実世界に寄り添ったシックでダンディーな作風を軸に据えている。とりわけベースやパーカッションを巧みに用いた味わい深い楽曲が揃っている。サウンドトラックは未発売のため、曲名は便宜上の仮称とする。
スタッフロールで流れるのがこの曲である。無事に許しを得て船を降り、ヴィンテージ感のあるセピア色の街並みの一枚絵とともに静かにスタッフロールが映し出される。そうしたなか、この曲はバラード風の曲調でしんみりと黄昏るような雰囲気を漂わせる。哀愁に満ちた主旋律と、低音で聴きやすく心地良い響きを添える副旋律が綺麗に絡み合うことで、すくない音数ながらも互いに補い合って不足感のないバランスを保っている。17秒から新たな音色が加わると、音が増えて華やかになると同時に哀愁もますます深まっていく。その後もしばらく沈んだ調子で曲が進むが、46秒で音階を駆け上るとそこから明るめな印象を帯びるようになる。57秒で一時的にドラムを鳴らした後、1分3秒から本格的に刻み始めて最後のほうは変わらず哀愁を湛えつつも前向きに締め括る。紆余曲折を経て報われたと感じられる一曲である。
バッドエンドっぽいビターな曲調から最終的にめでたい感じで落ち着くのがドラマ性があって良いですね。