VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1732 『plazma-5』(藤原寛倫/dotstream/GBA)

soundcloud.com

任天堂がおくるソフトラインナップ・bit Generationsより、

藤原寛倫作曲、dotstreamの『plazma-5』(仮称)。同名のコースで流れます。

単純な点と形によるビジュアルと鮮やかなサウンドで彩られるGBA向けのソフトラインナップ・bit Generationsの第1弾にあたる本作。左から右へ自走する6色の光のラインのうち1つを操作し、障害物やアイテムが散りばめられたコースで順位を競うことになる。極度に簡略化されたレースゲームのようなもので、ラインは自動的に進行するため複雑な操縦は不要で、操作は上下移動とアイテム使用、加減速のみである。グランプリ形式で連戦して合計点を競うcampaign、任意のコースで対戦できるspot race、自機以外のラインにも指示を出してエネルギーが続く限り編隊走行するformationの主に3つのモードがある。基本的に自機は最下位スタートで、すでにライバルが通過済みの軌道には重なることができないが、他ラインの隣で併走することでスリップストリームを発生させて効率的に速度を上げることができる。上位を狙うにはこの制約と恩恵を意識することが肝となり、複雑な操縦は不要でも精密な判断力が問われる。また、スローや雷などのアイテムで仕掛けを突破したりライバルを出し抜いたりできるなど、レースの駆け引きや戦術要素が充実している。総じてコンセプト通りミニマルだが突き詰めた面白さがある仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは鈴木和臣海氏と藤原寛倫氏。いずれも当時、本作の開発元であるスキップに所属していた作曲家である。両名とも本作を皮切りにbit Generationsや後継のArt Styleシリーズでも長く携わり続けることになる。本作およびシリーズ全体を特徴付ける目玉要素としてサウンドが押し出されていて、GBA音源が持つ良い意味での粗さを活かした秀逸なテクノやアシッド系のナンバーが揃っている。コースの進行に応じてフレーズが追加されるなどインタラクティブに曲が変化する仕組みが搭載されていて、サウンドデザインへのこだわりが窺える。サウンドトラックは未発売のため曲名は便宜上の仮称とするが、一部楽曲は藤原氏SoundCloudで公開されている。

plazma GPの最後のコースで流れるのがこの曲である。後半の難所の一つで、間隔が狭まったり広がったり、波のように上下に行ったり来たりするブロック群が行く手を阻む。ブロックに接触したらライフが減って最悪リタイアに追い込まれる危険があり、道中の雷パネル(画面内の仕掛けを消去するボムのようなもの)をいつ使うかが攻略の鍵になる。冒頭はいかにもチップチューンらしい低音を鳴らしてテンションを蓄え、12秒あたりからにわかに高速なビートを刻んでドラムンベース的なノリを形成する。24秒から入る主旋律はいたってレトロで質素だが、36秒には異様な昂ぶりを湛えた副旋律が合流し、なにか強く訴えかけてくるような響きがある。コース前半を終えると主旋律が途絶える1分以降のパートに突入し、再び1分12秒で主旋律が加わるとこれまでとは流れを変えて、三連符を取り入れながらリズミカルに展開する。コースの尺を踏まえるとだいたい2分以内で曲がループに入る前には完走する。闇を裂く稲光のように鋭く切実な一曲である。

GBA音源は原則的にチップチューンではないと思っているんですが、これはチップチューンですね。