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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#232 『泡沫』(MANYO/アカイイト/PS2)

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サクセスがおくる和風伝奇アドベンチャーアカイイトより、

MANYO作曲、『泡沫』。各ルートの最終局面で流れます。

PS2向けのオリジナルアドベンチャーとして登場した本作。唯一の肉親だった母親を失い、遺品整理のために生まれ故郷の田舎へと帰省した女子高生・羽藤桂は、自身に流れる贄の血により妖を惹きつける特殊な体質を持っていることを知り、運命に翻弄されることになる。日本神話に基づく和の世界観のもと、少女と少女の瑞々しい友情と繊細な心の動きを描いている。計32個にも及ぶシナリオ分岐が特徴で、はじめは封印されていて辿れないルートも、攻略するうちに徐々に分岐の幅が増えていく。ときに悲劇的な幕引きを迎えたり、吸血描写などの刺激的な要素も含んだりしつつ、どの結末も相応の濃密さを味わわせてくれる。美しくも残酷な世界観と、女の子同士の官能的な描写とが相まって、百合ゲーの傑作として知られている。後にスイッチとSteam向けにHDリマスター版が登場した。

本作の音楽を担当するのはMANYO氏。当時Little Wingに所属していた作曲家で、PCゲームを中心にインストゥルメンタルもボーカルも数多く手がけている。本作でも主題歌を含めて全曲単独で作曲していて、透明感のある独特な作風に沿った良曲揃いである。サウンドトラックについては、通常のもののほか、とりわけ人気のある2曲(『いつかのひかり』『泡沫』)のボーカルアレンジを収録したイメージCDもあり、いずれも主題歌を歌った霜月はるか氏がボーカルを務めている。

物語終盤のイベントで流れるのがこの曲である。ピアノとハープとギターとフルートによる幻想的なイントロから始まり、終始穏やかで物静かで、それでいて芯の強さを感じさせる曲調を貫く。ストリングスによる伴奏を背景に、ピアノからギターへ、ギターからフルートへと変遷していく主旋律は、移ろいやすい儚さと、それでも逆境に屈しない力強さを兼ね備えている。その癒しの調べは、和楽器を用いることなく、作中に漂う和の雰囲気を表現しているかのようである。心を打つ幽玄な魅力に満ちた一曲である。

ボーカルアレンジも絶品です。ストリングス要素をかなり強めて、そこに霜月さんの甘く鮮やかな歌声が加わることで、原曲とはまた違った上品さがあります。あわせてどうぞ。

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