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#989 『礼楽刑政』(大塚正子・坂本英樹/三國志14/PC・PS4)

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コーエーテクモがおくる歴史シミュレーション・三國志より、

大塚正子・坂本英樹作曲、14の『礼楽刑政』。

君主の主義が礼教のとき、戦争シーンで流れます。

三国時代を舞台に中国統一を目指す三國志シリーズのナンバリング14作目にあたる本作。前作の武将プレイから再び君主プレイに回帰し、遊びたいシナリオと勢力(君主)を選び、広大な1枚マップで表現された中国大陸を自勢力の色に塗りつぶしていく。特筆すべきは兵站システムで、部隊とその出陣元を繋ぐ補給線が切られると士気が大きく下がって混乱に陥るなど非常に顕著に弱体化するため、いかにうまく自部隊の兵站を確保し敵部隊を遮断するかが攻略の肝となる。登場する武将は単純に数が多いだけでなく個性の組み合わせで使い勝手は結構異なるほか、君主には内政面に関わる六つの主義のうちいずれかが設定されていて、国家運営に影響を与える。内政は簡素で戦闘バランスやゲームテンポにやや難があるが、アップデートによる改善も含めて手堅い完成度を誇る仕上がりとなっている。後に追加要素を加えたパワーアップキットが登場し、スイッチにもwithPK版が発売された。

本作の音楽を担当するのは大塚正子氏と坂本英樹氏。大塚氏はコーエーテクモに所属する作曲家で、坂本氏は音楽制作会社ノイジークロークの代表である。大塚氏は三國志シリーズには12から参加していて、坂本氏はシリーズ初参加だがコーエーテクモ製という括りで言えば討鬼伝シリーズでの作曲経験がある。本作では格式高いオーケストラに中華らしさを添えた壮大な楽曲が揃っていて、坂本氏曰く「中国音楽のエッセンスは二胡などの楽器や中国音階の部分的な採用に留め、比較的現代的な作りの音楽」を目指したという。サウンドトラックは主題歌を除き収録したものが限定版に同梱されている。

本作では君主の主義によって戦争シーン(進行フェイズ)で流れる曲は変わる仕組みだが、君主の主義が「礼教」の場合に流れるのがこの曲である。礼教は内政特化で次点で計略に長けるが、戦闘には向かないタイプで、劉表や王朗などがこの主義を掲げている。学者肌な君主による戦争を彩るにあたって、管弦楽器が絡み合うイントロでまずもって重厚感を印象付け、30秒過ぎからは理知的で気品のある旋律を紡ぐ。バイオリンとフルートの甘美な合奏が一段落つく55秒頃になると今度は二胡が主旋律を務め、さりげなく寄り添うピアノともども、物悲しくも美しい音色を奏でる。二胡の演奏が終わる曲後半からは悲壮感が増し、淑やかな空気感を保ちつつ音の一つ一つが凄絶な覚悟を滲ませる。奥ゆかしくも激しい抑揚に満ちた一曲である。

この曲を紹介してほしいというリクエストをいただきました。曲名は古代中国で秩序を保つために必要と考えられた四つの概念(礼節、音楽、刑罰、政治)のことです。ついでに本作といえばもう一曲、季節が春のときの戦略フェイズで流れる『春水』が好きなので、そちらもあわせてどうぞ。

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