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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1133 『終末へ向かう』(すぎやまこういち/ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君/PS2)

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スクエニがおくるRPGドラゴンクエストより、

すぎやまこういち作曲、8の『終末へ向かう』。ラストダンジョンで流れます。

ドラクエシリーズのナンバリング8作目にしてPS2進出作にあたる本作。道化師・ドルマゲスの呪いによって廃墟と化したトロデーン王国で、唯一呪いを免れた近衛兵の主人公は、王国を救うべく旅に出ることになる。従来の2Dからフル3Dへ、世界の広さを実感できるような活き活きとしたグラフィックが特徴で、愛嬌のある絵柄とリアリティを絶妙な塩梅で両立した立体的なフィールドを冒険することができる。戦闘に関わる新要素として、1ターン溜めることで次の攻撃や呪文の威力を強化するテンションというシステムが導入されたほか、レベルアップの際に通常の能力値の上昇に加えて自分好みに割り振りできるスキルポイントを得られるようになった。また、素材を合成してアイテムをつくる錬金釜や、シリーズおなじみのカジノやメダル集めなど、新旧問わず寄り道要素が充実している。ドラクエらしい王道なゲーム性を受け継いだうえで、3D化によって正統進化を遂げた仕上がりとなっている。後にスマホ向けに移植されたほか、3DS向けにリメイクされた。

本作の音楽を担当するのは故・すぎやまこういち氏。シリーズサウンドの生みの親である。本作ではハードがPS2に移行して音質が向上したことにより、これまで採用してきたクラシカルなオーケストラ路線が今まで以上に本領を発揮できるようになった。戦闘曲からフィールド曲、ダンジョン曲に至るまで、壮大な冒険をときに楽しく、ときに勇ましく、ときにシリアスに彩る楽曲群が揃っている。また、過去作からのアレンジなども含まれる。サウンドトラックについては、オリジナル音源のほか、交響組曲版や3DS版なども存在する。

ラストダンジョンである暗黒魔城都市で流れるのがこの曲である。空に浮かぶ城塞都市で、町並みや建物はしっかりつくり込まれているものの、誰一人いない不気味な景観を持つ。そうしたなか、イントロからストリングスのトレモロ(同じ音を小刻みに鳴らして震えるような響きを生む演奏法)を用いることで、早々に独特な忌々しさを印象付ける。時折フルートの高音を響かせたりトランペットを鳴らしたりして予測不能な旋律を奏で、不穏な雰囲気をどんどん募らせていく。33秒あたりでようやく冒頭からずっと奏で続けられていた音色が変わるも、依然として捉えどころのない不安定さが漂う。その後も歪な曲展開が続き、1分30秒手前になると唐突に風変りなフレーズを奏でるようになる。かと思いきや、1分50秒頃ではブラスを駆使して勇猛な勢いを見せつけ、ただ奇妙であるだけに留まらない迫力を感じさせる。あまりに先が読めない曲調であるがゆえにループの繋ぎ目すら把握しづらいが、2分36秒頃で曲冒頭から再始動する。混沌と焦慮に満ちた一曲である。

この曲を紹介してほしいというリクエストをいただきました。恐ろしく不協和だけど不快ではない巧妙なバランスで成り立っている曲ですね。交響組曲版もあわせてどうぞ。

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