山西利治作曲、マリーの『只今お仕事中!』。工房で流れます。
錬金術を題材とするアトリエシリーズの第1作にあたる本作。王立アカデミーに通う落ちこぼれ錬金術士・マルローネ(通称マリー)は、あまりの成績の悪さに卒業が危ぶまれるなか、5年間アトリエを経営して先生を納得させる道具を提出すべく奮闘することになる。RPGにありがちな西洋ファンタジーの世界観ながらも、壮大な冒険譚ではなく錬金術によるアイテム作成と日常の営みに重きを置いた作風が特徴である。アイテムを調合するには材料とレシピが必要で、そのためには冒険者を雇って採取地に出かけたり、レシピを学べる参考書を入手したりする必要があり、それには時間とお金が必要になることから、一歩ずつ仕事をこなしていくのが攻略の肝となる。少女漫画風の筆致で描かれるキャラとの交流要素も魅力の一つで、行動次第で結末が分岐するマルチエンディング制を採用している。資金のやりくりや時間の制約などのマネジメント要素が強く、従来のRPG像とは一線を画する世知辛くも愉快な仕上がりとなっている。後にセガサターンに移植され、Plus版がPS、PC、アプリで登場したほか、後作とのカップリング移植がドリームキャストやPS2向けに発売された。また、後年にスイッチ、PS4、PS5、Steam向けにリメイクされた。
本作の音楽を担当するのは阿知波大輔氏と山西利治氏。いずれも当時ガストに所属していた作曲家である。アトリエシリーズには山西氏は続編のエリーまで、阿知波氏は秘密シリーズを除き現在に至るまでほぼすべての作品に携わっている。本作では良曲揃いとして知られるシリーズサウンドの基礎を築き上げた表情豊かな楽曲群が揃っている。素朴な温かみのある民族音楽調を軸に、日常を彩るポップでキャッチーなものから、冒険を彩るシリアスでミステリアスなものまで、場面に沿ったサウンドを楽しむことができる。サウンドトラックはボーナストラックも含めて収録されている。
工房で流れるのがこの曲である。錬金術士の仕事場であるアトリエのことで、必然的に作中においてたびたび耳にすることになる。ハーモニカやバンジョーのリズミカルな旋律が特徴的な濃厚なカントリーミュージックで、その底抜けに能天気な響きは、田舎娘でトラブルメーカーという主人公のマリーの性質をよく捉えている。終始似たり寄ったりな曲調が続き、38秒で早くも聴き馴染みのあるフレーズを反復するようになるが、50秒頃の裏メロがやや異なる、1分16秒以降に新たな間奏パートが加わるなど、大部分は共通しているなかでもさりげない変化に富んでいる。実際にループに入るのは1分50秒あたりで、その後も変わることなく明るくせわしない雰囲気を漂わせ続ける。楽しいけど大変な錬金術士の日常を余すことなく表現した一曲である。
一日遅れですがアトリエ25周年記念に(※記事執筆時)。アレンジはいろいろありますが、これは原曲の時点で完成形ですね。工房の曲であると同時にマリー(キャラおよび作品全体)のテーマ曲のような印象です。
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追記:記事執筆時はリメイク発売前でしたが、谷岡久美さんアレンジの『只今お仕事中! ~for マリー Remake』もあわせてどうぞ。