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#1204 『洋上』(宮川泰/提督の決断/PC98)

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光栄がおくるウォーシミュレーション・提督の決断より、

宮川泰作曲、初代の『洋上』。洋上で流れます。上記動画の15:11から19:30まで。

歴史シミュレーションで知られる光栄によるWWⅡゲームの第1弾にあたる本作。太平洋戦争の時代を舞台に、プレイヤーは日本軍もしくは連合国軍の提督となり戦局を動かすことになる。開始時に「日米交渉決裂(昭和16年11月~)」から「大和特攻(昭和20年4月~)」までの9つのシナリオから一つ選び、日米いずれかの立場で戦勝を目指す。作戦会議での目標の策定、艦隊の編成や補給、HEX制の戦闘、内政の拡充や諸外国との外交など、戦況に影響を及ぼす要素を多角的に管理して進めていく。登場する艦船や将校は概ね史実に則っているほか、自国も一枚岩ではなく陸軍が何かと物申してくるなど、現実味のある駆け引きを味わえる。一方で、海軍メインということもあってか、戦闘機まわりは大まかな分類のみで機種が設定されていない点や、相応の日数を要さず即座に兵器を生産できる点など、大雑把な部分もすくなくない。戦国や三国の歴史ものとは一味異なる近現代の戦略的な攻防を楽しめる仕上がりとなっている。後にPC各種やスーファミメガドライブなどに移植された。

本作の音楽を担当するのは故・宮川泰氏。テレビや映画、和製ポップスの分野で幅広く活動していた大御所の作曲家で、宇宙戦艦ヤマトの作曲者として名高い。提督の決断シリーズは作品ごとに作曲者が異なるため、宮川氏がシリーズに関わったのは本作のみである。本作の楽曲は、母港は心安らぐ曲調、戦闘は緊迫した勇壮な曲調、会議は物々しげな曲調など、各シーンに合わせて顕著につくり分けられている。また、拠点関連や勝敗のBGMは日本側と米国側でそれぞれ用意されている。サウンドトラックについては、交響詩の形式で生演奏したサウンドウェア盤や、移植版のSFC音源を収録したものなどが存在する。

洋上で流れるのがこの曲である。出港して進路を定めて海を移動したり索敵したりする一連の工程を彩るにあたって、イントロにスネアドラムの特徴的な音を持ってくることで、軍歌を彷彿させる勇ましくも張り詰めた印象を与える。開始から15秒ほど(15:25)で主旋律が入ると、FM音源による独特な厚みのある音色でしばらくの間、淡泊だけど聴き応えのあるメロディーを紡ぐ。ちょうど1分頃(16:10)で流れが変わると、一気に雲行きが怪しくなる。旋律が不穏であることに加え、それまで順調なペースで鳴っていたスネアに代わり、バスドラムが時折響くだけになっている点がますます焦慮を誘う。その後も長らく沈んだ調子で揺蕩い、いつまで続くとも分からぬ剣呑な空気を漂わせる。が、2分15秒過ぎ(17:28)で再度流れが変わると、オルゴールか鉄琴を連想させる煌びやかな音色を用いて、気持ちを宥めてくれるような優しい調べを奏でる。しかしそれもまた唐突に遮られ、終盤となる3分10秒以降(18:21)は、一旦は軍歌風の曲調へ戻るも、また哀しみを帯びた曲調へと移る。刻一刻と潮目が変わる様子がよく表現された、波乱に富んだ一曲である。

この曲を紹介してほしいというリクエストをいただきました。サウンドウェア盤だと第二楽章の1曲目に収録されていて、オーケストラ演奏がよく映えますね。あわせてどうぞ。

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