VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1142 『イスラム文化圏』(大井定光・志知道彦/チンギスハーン・蒼き狼と白き牝鹿IV/PC)

www.youtube.com

光栄がおくる歴史シミュレーション・蒼き狼と白き牝鹿より、

大井定光・志知道彦作曲、4の『イスラム文化圏』(仮称)。

イスラム文化圏で流れます。上記動画の15:57から17:56まで。

13世紀前後のモンゴル史を扱うシミュレーション・蒼き狼と白き牝鹿のナンバリング4作目にあたる本作。広大なユーラシア大陸を舞台に、プレイヤーは君主となって大陸統一を目指すことになる。1189年開始でチンギス・ハーンの時代を描くシナリオ「草原を駆ける狼」と、1271年開始で元朝の時代を描くシナリオ「蒼き狼の末裔たち」の2本立てで、大陸各地を一つの地図で表現する1枚マップ制を採用している。従来作から変わってすべての国家でプレイできるようになった点が大きな特徴で、文化圏ごとに特色のある治世をおこなえるほか、自分好みに都市を建設・発展させることができる。シリーズおなじみのオルド(妃を侍らせて後胤を設ける要素)は本作では宴というシステムに吸収されていて、将軍も妃も宴に招待することで親睦を深められ、国としての結束力を高めたり優秀な跡継ぎを得たりすることができる。史実の人物が多く登場するなど歴史の観点でも充実していて、中世ユーラシアの激動の時代を追体験できる仕上がりとなっている。後に追加要素を加えたPK版が登場したほか、PSに移植された。

本作の音楽を担当するのは大井定光氏と志知道彦氏。当時光栄に所属していた作曲家である。これまでのシリーズでは菅野よう子氏や大島ミチル氏といった社外コンポーザーを起用していたが、本作ではサウンドが内製になったようである。モンゴルはもちろん、ユーラシア各国の風土を表現すべく、本作ではアジア圏のオリエンタルな曲調から欧州圏の優雅なオーケストラ調まで国際色豊かな楽曲群が揃っている。サウンドトラックは未発売のため、曲名は便宜上の仮称とする。

イスラム文化圏で流れるのがこの曲である。シルクロードの要衝として栄えた中央アジアの国々を、いかにも独特な気品のある曲調で華やかに彩る。はじめは静かだが、徐々にタンブール(撥弦楽器の一種)のものと思しき豊かな倍音がはっきり響くようになる。10秒(16:07)過ぎで艶めかしい歌声が入り、後を追うように笛が奏でられることで、纏わりつくような神秘を生む。特に30秒~41秒(16:27~16:38)頃の笛のフレーズは、さながら輪唱するように複雑に旋律を絡み合わせていて、妖しくも耳心地の良い印象を与える。次いで再び歌声が加わると、今度は笛の代わりに撥弦楽器が主旋律を担い、ますます蠱惑的な色合いを強める。が、1分前後(16:56)で流れが変わると、一気に高音轟く正統派なオーケストラサウンドへと転じ、甘美なコーラスや渋いベースなどと相まって非常に晴れやかに響き渡る。管弦楽器が姿を潜める曲終盤はコーラスとベースの絶好の見せ場となっていて、小粋な間奏によって最終的にシンバルが鳴って仕切り直すまでの間を取り持つ。独自の文化が芽吹く風土を没入感たっぷりに表現した一曲である。

打楽器の音がちょうどうまい具合に曲の流れを支えていて良いですね。