田中宏和作曲、『ステージ1』。1面の冥府界で流れます。
ディスクシステム向けのアクションゲームである本作。光の女神・パルテナが統べるエンジェランドが闇の女神・メデューサに乗っ取られたことを受け、天使のピット君が平和を取り戻すべく戦うことになる。全4面構成で各3エリア+砦(ボス戦エリア)から成り、ステージによっては縦スクロールだったり横方向だったりシューティング風だったりする。操作は主に移動やジャンプ、弓による攻撃を用いることになり、道中にはパワーアップアイテムが配置されているなど、基本的にはアクションゲームの定番を押さえている。これに加え、取得したスコアに結び付く形で体力の上限アップや弓の強化といった恩恵を得られたり、各地の小部屋に立ち寄ることで修行を積んだり店で買い物できたりするなど、RPGのような成長・探索要素が含まれる。世界観はギリシャ神話をモチーフとしているが、なぜか自機がナスに変身したり敵がトンカチに変身したり、ヤミ商売している店でクレジットカードでツケ払いできたりするため、おちゃらけたムードが漂っている。それとは裏腹に難易度は高く、特に序盤にかけては落下死や増援を呼ぶ敵など様々な危険が付き纏うが、強化状態や装備が揃う後半はむしろスイスイ進められるようになる。遊び心に富んだチャーミングな仕上がりとなっている。後にディスクシステムセレクションの一環としてGBAに移植された。
本作の音楽を担当するのは田中宏和氏。スタッフロールではHIP TANAKA名義でクレジットされている。当時、任天堂に所属していた作曲家である。ディスクシステム用の作品では本作以前にもメトロイドの担当経験がある。本作の音楽は勇気をくれるような明るく親しみやすいものが揃っていて、その曲調は交響曲や行進曲を彷彿とさせる。それとは別に、本作特有のおちゃらけた雰囲気を表現するにあたって、気の抜けたような楽曲や象徴的なジングルも用意されている。サウンドトラックについては、ファミコン作品群をまとめたアルバムのなかに本作の楽曲が含まれるほか、メトロイドと一緒にオーケストラ風のメドレーアレンジを施したものも存在する。
1面の冥府界で流れるのがこの曲である。下から上へと昇っていく縦スクロール面で、エリアによって岩造りだったり溶岩があったりするが、いずれも共通して画面外に落っこちないよう注意しつつ足場を乗り移ることになる。前述の通り本作は序盤ほど手強いことで知られるため、冥府界が作中屈指の難所と言える。高難度の冥府という重めの設定に反して、この曲はあくまで1面らしい前向きで力強い雰囲気に満ちている。規則的なドラムと同じ音程を繰り返す音色で始まり、3秒頃で主旋律が加わると、さながら行進曲のなかで吹奏楽器が高らかに鳴り渡るような潔い印象を与える。主旋律の裏で8~9秒や14~15秒などで心地良いアルペジオを奏でることで、曲の流れをうまく陰から支えている。16秒で新たな展開をみせ、二度繰り返した後の25秒からはより力強く、ドラムの響きを強めて主旋律も雄大さを増して盛り上がっていく。31秒からのファンファーレ風のフレーズは、タイトル曲で用いられたメインテーマの引用で、ここに至るまでしっかり盛り上げて綺麗に引用部分を融け込ませている点はとても秀逸である。何度失敗しようとも這い上がるモチベーションをもたらしてくれる一曲である。
この曲を紹介してほしいというリクエストをいただきました。オーケストラ風のメドレーアレンジはサンプリング音源で、絶妙な古めかしさが感じられますね。話に出たタイトル曲(原曲)と冥府界BGMを含むオーケストラメドレー、あわせてどうぞ。