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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1348 『虎落笛』(阿知波大輔/大正もののけ異聞録/PS2)

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ガストがおくるシミュレーションRPG・大正もののけ異聞録より、

阿知波大輔作曲、『虎落笛』。橘八雲の戦闘曲として流れます。

アトリエシリーズで知られるガスト製の和風シミュレーションRPGとして登場した本作。時は大正、地は信濃、モノノケと意思疎通することができる五人の主人公は、すべて集めれば願いが叶うという天降勾玉をめぐり、モノノケを率いて七日に一度の百鬼夜行で相争うことになる。素性や目的の異なる5人のいずれかを開始時に選択し、その視点から交錯する物語を追体験していく。主に交流や支度をおこなうパートと、選ばなかった主人公と対峙して戦う百鬼夜行パートに分かれている。前者は横スクロール形式で街を探索したり、各種イベントに遭遇したり、点で結ばれた見下ろし型のワールドマップを日数を費やして行き来したりする。全36種のモノノケを戦闘や儀式を通じて仲間にし、自分好みにスキルスロットを埋めたり、条件次第で別の姿に変生させたりできる。後者の百鬼夜行ではモノノケ4体を前衛・指揮官(主人公)を後衛とし、ターン制コマンドバトルで場の属性や多彩な技を駆使してライバルの打倒を目指す。このように、モノノケを使役・強化する育成RPG要素と、下準備と実戦を交互に反復するシミュレーション要素が融合している。全体的にグラフィックは簡素で、ゲームテンポやサイクルはやや冗長だが、味のある意欲作に仕上がっている。

本作の音楽を担当するのは阿知波大輔氏。当時ガストに所属していた作曲家である。アトリエシリーズはもちろんのこと、作品の立ち位置やゲーム性が近い黒い瞳のノアなどでも作曲経験がある。また、主題歌には歌手の永倉秀恵氏を起用していて、阿知波氏は青木香苗名義で作詞している。本作では西洋化が進みつつある大正時代という舞台設定を受けて、和楽器を軸に据えつつパーカッションやシンセなどのパワフルな音色を積極的に取り入れた楽曲が揃っている。曲名は季語を入れたり難読語を用いたりして雰囲気づくりにこだわっているほか、作中に音楽を鑑賞できるモードが実装されている。サウンドトラックについては本作単体で収録される通常盤とデジタル配信版に加え、ガスト20周年記念CDボックスのなかにも含まれている。

橘八雲の戦闘曲として、彼を主人公とする場合は通常戦闘で、それ以外の場合は彼を相手に戦う際に流れるのがこの曲である。八雲は反物屋で働く半人半妖の温厚な少年で、床に伏せる母を癒す力を求めて戦いに身を投ずることになる。二連シンバルによる象徴的なイントロで始まり、悲壮感あふれる音色に、高速で掻き鳴らされる三味線や、力強く合いの手を入れるオーケストラヒットを組み合わせることで、冒頭から一気呵成の構えをみせる。26秒から笛の主旋律が入ると、冒頭と比べて勢いが一旦弱まるが、35秒で三味線が響くのに続いて再びオーケストラヒットが主調するようになる。徐々に勢いが強まっていくと思いきや、49秒からベースやコーラスを用いて落ち着いた空気感を漂わせる。その間、笛はしばらく鳴りを潜めるが、1分12秒のサビで三味線を随えて主役に返り咲くと、精一杯の情緒を込めて激しくも切ない旋律を紡ぐ。サビにおける笛の迫力はかなりのものだが、サビが終わってから響く1分41~48秒と1分59秒~2分7秒の高音パートも格別な存在感を帯びている。普段は大人しい性格でも、為すべきことのためになら全力で戦う覚悟を滲ませた一曲である。

曲名の読みは「もがりぶえ」、冬の激しい風が虎落(竹の柵)に吹きつけて鳴る笛のような音のことで、冬の季語ですね。ちなみに八雲くんは上記動画の静止画だと一番右の青い帽子を被った子です。