VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1396 『Recreation』(Carlo Castellano/The Swapper/PC)

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Facepalm Gamesがおくるパズルプラットフォーマー・The Swapperより、

Carlo Castellano作曲、『Recreation』。Crew Recreational Zoneで流れます。

フィンランドのインディースタジオ・Facepalm Gamesの代表作にあたる本作。廃宇宙ステーション・Theseusを舞台に、スカベンジャーの主人公は自らのクローンを作り出して意識を乗り移れる謎の装置・Swapperを使って探索することになる。暗く孤独なSFの世界観と、クレイアートのような質感のグラフィックが特徴的なメトロイドヴァニア系のパズルプラットフォーマーで、各エリアに散らばるオーブを集めることで先へ進める仕組みである。最大4体まで照射した先にクローンを生成し、そのクローンに乗り移って様々なギミックを攻略していくなかで、ときには元の身体を犠牲にしてでも、容赦なく分身を使い捨ててでも突き進む必要がある。青い光に照らされた空間ではクローンは作れず、赤い光は照射を阻んで乗り移りを制限し、紫の光は両方の制約がかけられる。道中には明確な敵は存在しないが、落下死のリスクや障害物の脅威などがあるため、状況や環境に応じた柔軟な閃きと緻密な操作が要求される。断片的に語られる哲学的なテーマや、ふとしたときに底冷えさせられるような雰囲気づくりなどと相まって、奥深い手応えのある仕上がりとなっている。後にWiiUPS3PS4、Vita、XboxOneに移植された。

本作の音楽を担当するのはCarlo Castellano氏。イタリア出身の作曲家で、オーディオソフトウェア会社・AudioThingの設立者である。本作以前にも小規模なインディーゲーム向けに作曲をおこなったことはあるが、本作では作曲のみならず環境音や効果音制作も含めて音響全般を担当しているとのことである。宇宙の孤独、意識の所在といった深遠な作風を表現するにあたって、シンセを軸としたアンビエント系のおとなしめの楽曲が多いなかで、要所要所でピアノを印象的に取り入れている。部屋ごとに環境音のフィルターがかかって楽曲の聴こえ方が異なる点が、無人の宇宙ステーションを探索する臨場感を高めるうえで一役買っている。サウンドトラックは氏のBandcampで配信されている。

Crew Recreational Zoneで流れるのがこの曲である。かつて船員たちの休憩所だった場所で、薄暗くも温かな照明の下にはソファやカウンターテーブルがみられる。本作の他の楽曲と比べると、この曲は異質なほどメロディアスで人情味に満ちているが、それがかえって無人の侘しさを引き立たせている。はじめはカセットテープのノイズを思わせるローファイな響きで始まり、ピアノの音が加わると瞬く間に意識を奪われて聴き入らせてくれる。左手で暗澹としたフレーズを淀みなく奏で、右手で音数を絞って繊細な旋律を紡ぐことで、心の深層まで入り込んでくるような極上の寂寥感を漂わせる。特に40~42秒や57~59秒などで細やかに指を動かして鍵盤を駆け上ると、いっそう記憶に残る美しさを生み出す。そのうえさらに1分30秒過ぎには高音域をフィーチャーしたフレーズがあり、息が詰まるような儚さと虚しさを感じさせる。ピアノの響きは終始優しく労わりにあふれているのに、身を引き裂かれてしまいそうな哀しみを湛えている。まるで心の痛みを具現化したような一曲である。

作曲者ご本人によるとこの曲は即興で作曲したものらしいです。曲名はそのままの意味で「レクリエーション(気晴らし、休養)」ですが、何度もクローンを作り直す「再構築」のニュアンスもありそうですね。