VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1417 『いざ起て戦人よ』(千住明/トライアングルストラテジー/NS)

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スクエニがおくるタクティクスRPG・トライアングルストラテジーより、

千住明作曲、『いざ起て戦人よ』。戦闘準備画面で流れます。

オクトパストラベラーのHD-2D表現を踏襲した完全新作として登場した本作。三国が割拠するノゼリア大陸を舞台に、グリンブルク王国の名門であるウォルホート家の次期当主・セレノアは、訳あってエスフロスト公国公女・フレデリカを嫁に迎え、やがて歴史を揺るがす戦乱に身を投じることになる。ドット絵と3DCGが融合した独特な質感と陰影に富んだグラフィックが印象的なファンタジー戦記モノのシミュレーションRPGである。家の存続か、民の幸福か、理不尽からの解放か、何を取って何を犠牲にするかによって展開が分岐するマルチエンディング制を採用している。決断はそれぞれ異なる信念や価値観を持った仲間キャラを交えて多数決で決めることになるが、場合によっては仲間を説得して意見を変えさせるといった能動的な介入も可能である。戦闘では勝利条件に基づいてクラスごとに性能差があるユニットを指揮し、高低差や地形の概念のあるマス目上で戦うなかで、攻撃の向きやマップギミック、位置取りによって生じる追撃などにも適宜注意を払う必要がある。総じて濃厚でシリアスな戦争ドラマを追体験できる仕上がりとなっている。後にSteamに移植された。

本作の音楽を担当するんは千住明氏。映画やドラマなどの劇伴を多く手がける作編曲家である。ゲーム音楽を担当するのは珍しく、直近だと同じくスクエニのVARIOUS DAYLIFEにてスーパーバイザーとして参加した経験がある。本作では全曲単独で作曲していて、重厚な世界観にあわせた本格的なオーケストラサウンドを多数書き下ろしている。曰く「曲の中で“人間”を強く表に出そうと思った」らしく、全編を通して物語性や生命力を感じさせる壮大な楽曲群を楽しむことができる。また、曲によってはパンフルートバラライカといった民族風の音色を取り入れている。サウンドトラックはメインテーマのボーカルアレンジも含めて4枚組で収録されている。

戦闘準備画面で流れるのがこの曲である。出撃するユニットとその初期配置の選択、マップの確認など、着々と戦支度を進めるシーンを彩るにあたって、ストリングスとブラスとドラムの王道の組み合わせに、さながら軍靴の踵を鳴らすかのようにしてカスタネットを添えることで、曲冒頭から小気味良く昂揚感を刺激してくれる。迫力満点なイントロに続けて、10秒頃からストリングスが滑らかで美しい調べを奏で、使命や緊張、悲哀など様々な思いが交錯しているような印象を与える。特に20~25秒で、高く澄んだ主旋律の弦の音色と、中低音域で粘り強く繰り返す伴奏の弦の音色が見事に絡み合い、そこにフルートやカスタネットがさりげなく寄り添うことで非常に心に響く臨場感を生み出す。そこから徐々にブラスが勢いを強めていくと、再度35秒でイントロのフレーズをなぞった後、52秒からはストリングスに代わってブラスが主旋律を務める。同じ旋律を辿るなかでも楽器が変わったことで聴き応えも変わっていて、優美さよりも勇猛さが強調されるようになる。開戦前にぐっと戦意と士気を高め、血路を開く覚悟を決めさせてくれる一曲である。

聴いていると芯から火照ってくるような格好良さがありますね。