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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1428 『霊峰の里』(高浜祐輔/マーメノイド/PS)

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XINGがおくるRPG・マーメノイドより、

高浜祐輔作曲、『霊峰の里』。霊峰の里で流れます。

独特な世界観を特徴とするPS後期のファンタジーRPGとして登場した本作。男性種が存在せず女性の人魚だけが住まう理想郷・マーメノイアにて、幼少の頃より体つきや髪質の違いから疎外されてきた主人公・アーディンは、不思議な指輪を拾ったことをきっかけにやがて自身の秘密と世界の真実を知ることになる。謎めく人魚たちの海中世界を舞台とする幻想的で繊細な世界観が何よりの魅力で、さながらミュージカルのような雰囲気で主人公の境遇や心の機微、個性豊かな仲間たちとの交流が丁寧に描かれる。海中世界はフル3Dで自由に泳ぎ回ることができ、やや粗めだが独自の質感のあるグラフィックを楽しむことができる。戦闘は最大3人まで参加可能なターン制コマンドバトルで、クリティカルヒットが出ると連続で攻撃を繰り出せるほか、装備している武器や使う技によって新たな技を修得できる、いわゆる閃きに近い成長システムが搭載されている。難易度は緩く大味なところがあるが、全編を通して神秘を感じ取れる独創的な仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは高浜祐輔氏と八鍬斉氏。高浜氏は90年代から多くのゲーム音楽を手がける作曲家で、XING製の作品では本作以前にもK-1 Grand Prixシリーズなどでの担当経験がある。八鍬氏は後に高浜氏が設立する音楽制作会社ターゲット・エンタテインメントに所属することになる作曲家で、本作の担当分は数曲のみに留まる。ミュージカル風のディープでメロウな作風を表現するにあたって、本作では弦楽器が映える上質なオーケストラサウンドを多く取り揃えている。なかにはソプラノを取り入れたものもあり、深い海の世界を臨場感たっぷりに味わうことができる。サウンドトラックは発売されているが、一部の楽曲は未収録である。

霊峰の里で流れるのがこの曲である。霊峰の里は女神アフロディテから力を授かった魔導霊士たちの聖地であり、主人公の存在の謎に迫る重要なイベントが発生する場所である。そうしたなか、オカリナと思しき素朴な笛の音を軸とした優しくも哀しげな曲調で心にそっと染みる味わい深い雰囲気を形作る。はじめは笛のみだが、10秒あたりからハープを添えるとすこしずつ彩りが増していく。22秒頃で笛のうえにストリングスを重ねるようになると曲全体の印象が華やぐが、依然として漠とした寂寥感が漂い続ける。43秒以降でキーが上がった後も同様に、華美な響きが強まるのと同時に潜在的な哀愁が引き立つようになり、微妙なバランスを保ちながら音色を紡いでいく。ループ間際の1分12~13秒ではハープの小綺麗な音階をうまく用いて気持ち良く仕切り直す。途方もなく儚く素敵な一曲である。

本当に素敵という言葉がよく似合いますね。