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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1514 『解かれた絆』(駒井一輝/ファイアーエムブレム エンゲージ/NS)

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インテリジェントシステムズがおくるシミュレーションRPGファイアーエムブレムより、

駒井一輝作曲、エンゲージの『解かれた絆』。第11章の戦闘マップで流れます。

ファイアーエムブレムシリーズのうち、スイッチ向けの2作目にあたる本作。神なる竜と人が生きるエレオス大陸を舞台に、千年前の邪竜封印戦争後ずっと眠っていた主人公・リュールは、邪竜復活の兆しとともに目覚め、神竜の子として指輪から異界の英雄・紋章士を喚び出す力を駆使して戦うことになる。シミュレーションRPGとしての骨格はそのままに、前作の重厚な軍記ものらしさから一転してカジュアルな雰囲気を押し出している。キャラの造形や言動、交流要素の充実ぶりは昨今の流行やサブカルチャーのノリを取り入れていて、グラフィック面では背景や各種演出が簡素である分、キャラの表情や瞳の描写に大きくこだわっている。また、紋章士という立ち位置で歴代作品の登場人物がオールスター出演している点が特徴である。各ユニットは紋章士の宿る指輪を装備することで固有のスキルを使えるようになるほか、一時的にエンゲージ状態に突入して超強力なバフを得られる。具体的には移動力が爆増したり、隣接する仲間をまとめて再行動可能にしたりして、文字通り盤面をひっくり返す性能を持つ。これにあわせてマップ構成やゲームバランスがかなり緻密に練られていて、英雄豪傑の助力を得ながら手強い戦場を攻略する昂揚感をたっぷり味わえる。ライトに見せかけてハードな作風を備えた異色作に仕上がっている。

本作の音楽を担当するのは磯部文弘氏、金﨑猛氏、川崎良介氏、駒井一輝氏、馬場泰久氏、堀口純香氏、森下弘生氏、和田貴史氏。このうち金﨑氏、駒井氏、馬場氏、森下氏はインテリジェントシステムズに所属する作曲家である。磯部氏はフリーランスでIS製の作品によく携わることで知られるが、FEシリーズ本編での作曲は初めて(ヒーローズの作曲経験あり)である。川崎氏、堀口氏、和田氏は音楽制作会社Dimension Cruise所属の作曲家で、和田氏は本シリーズにはEchoes以来の復活参戦となる。いつも以上に作曲陣が大所帯であるなかで、本作ではエレオス大陸に5つある勢力ごとに異なるリードコンポーザーを設けていて、作曲家ごとの色と地域色が反映された多彩なサウンドが楽しめる。また、歴代作品からの出演があるため、過去作のアレンジ曲も相当数含まれる。サウンドトラックはインゲームBGMのCD7枚+各種ジングルや会話ボイスを収めたボーナスディスク1枚の全8枚組で収録されている。

第11章「撤退」の戦闘マップで流れるのがこの曲である。ここでは主人公陣営は指輪を奪われ、頼りにしてきた紋章士たちが敵に回って猛攻を仕掛けてくる。雨のなか命からがら撤退せねばならず、この章を境に物語後半に入ると言っても過言ではない。シチュエーションの絶望感とゲームシステムのえげつなさを痛感させられる象徴的な戦場を彩るにあたって、ピアノとストリングスがどこまでも悲劇的に響き渡る。最初の30秒ほどはピアノ主体で、ハープ含む弦楽器群は伴奏に徹するが、34~36秒でハープがにわかに荒ぶると、以降はストリングスをはじめとするオーケストラの存在感が強まる。曲が盛り上がるにつれて悲壮感も濃くなり、1分13秒で一段と、1分38秒でまた一段と、いやがうえに惨憺たる印象が増していく。1分52秒でピアノが一際分厚く低音を奏でた後、ちょうど2分でオーケストラの諸楽器が一斉にピークを迎える。もう戻れない、巻き戻すことのできない悲痛さが詰まっていて、2分16秒で休止を挟んで柔らかなピアノソロへ転じた後も余韻が続く。2分半から管弦楽器が合流し、2分47秒から甘美なオーボエの見せ場が、3分15秒から格別に甘美なチェロの見せ場が用意される。ときどきフルートやピアノを散りばめて曲の最後まで魅せてくれる。真に迫る喪失感がある一曲である。

この曲は雨がよく似合いますね。作中の雨の効果音との親和性がとても良いです。