VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1728 『カボチャ大王の城』(前野知常/サラダの国のトマト姫/FC)

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ハドソンがおくるアドベンチャーサラダの国のトマト姫より、

前野知常作曲、『カボチャ大王の城』(仮称)。カボチャ大王の城で流れます。

PC98用の同名のゲームのファミコン向けアレンジ移植にあたる本作。野菜と果物たちが暮らす世界を舞台に、平和だったはずのオニオン王国で私利私欲のために反乱を起こして王女のトマト姫をさらったカボチャ大王に対抗すべく、オニオン王国一の勇者であるキュウリ戦士が旅立つことになる。主な内容や世界観はPC98版原作と共通しているが、単語入力式だった原作からコマンド選択式に変更され、グラフィックや表示フォントの一新とも相まって全般的に親しみやすく調整されている。絵柄はファンシーで牧歌的で、敵との戦闘もあっち向いてホイでジャンケン後に方向を選ぶだけで決まる。戦闘は完全な運頼みということはなく道中で情報収集すればパターンが読めるため、軽い謎解き要素のような立ち位置である。全体的に脱力感があるが、その一方で野菜たちの政治情勢や種族間の対立と格差、野菜を捕食するノーミン族(いわゆる人間の脅威)など、描かれるテーマは相応の重みと説得力があり、上質なおとぎ話を読み進めるような手触りがある。総じて彩り豊かで実が詰まった仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは前野知常氏。フリーランスの作曲家で、当時北海道で活動していた縁もあって80年代後半から90年代にかけてハドソン製の作品にいくつか参加していた(ハドソンは北海道に本社があった)。PC98版原作はBGMがなかったが、ファミコンへの移植に際して新規に書き下ろされていて、作品の雰囲気に違和感なく溶け込む柔らかくメルヘンチックなサウンドが揃えられている。基本的には優しい曲調だが、なかには怪しげなジャズや、後半に向けたシリアスな音使いが目立つようになる。サウンドトラックは未発売のため、曲名は便宜上の仮称とする。

カボチャ大王の城で流れるのがこの曲である。カボチャ大王は国民に圧政を敷いて苦しめる暴君で、ここは彼の根城であるラストダンジョンである。出だしから緊張感あふれるシリアスな音色が奏でられ、ハイペースで刻まれるドラムがプレッシャーをかけてくる。20秒ほどは似通ったフレーズを反復してハードでストイックな印象を与えるが、やがて21秒から主旋律と副旋律を巧みに絡み合わせて勇壮かつ重層的な響きを生み出す。31秒から始まるサビは、これまで低音中心でくすぶっていたところから一転して高音を勢いよく鳴らすようになる。非常に耳に残るうえに気持ちを昂らせてくれるような効果があり、実にクライマックスらしい力強さが感じられる。噛み締め甲斐のある一曲である。

カボチャのおひたし……カボチャの天ぷら……パンプキンパイ……食べることしか考えていない……。