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隔週末の作曲家談議 vol.011:阿知波大輔

作曲家について語るコラムです。

vol.011で扱うのは阿知波大輔(あちわ・だいすけ)氏。

代表作は「アトリエ」「アルトネリコ」「よるのないくに」など。

なお、記事に記載された内容はすべて2019年5月25日現在のものです。

まずは一曲。

www.youtube.com『Nefertiti』(マナケミア ~学園の錬金術士たち~/PS2/2007年)

アトリエシリーズのなかでも群を抜いて高い完成度を誇るとされる同作の戦闘システムだが、その戦略性あふれる戦いをますます昂揚感たっぷりに彩ってくれるのがこの曲である。この曲は主人公ヴェインの出生の秘密を知るイゾルデとの二度にわたるボス戦において流れ、物憂げなピアノイントロから一気に勢いたっぷりにエレキギターの轟音をかき鳴らすさまは、まさに戦闘曲の醍醐味とも言うべき疾走感に満ちている。総じて楽曲の人気が高いアトリエシリーズだが、シリーズ全体を鑑みても初登場以来トップクラスの支持を集め続けている、阿知波氏の代表曲である。

阿知波大輔氏、1973年生まれ、愛知県出身の作曲家。青木香苗名義で作詞家としても活動している。得意楽器はギター。1996年にガストに入社し、同年に発売されたアクションアドベンチャー「ウェルカムハウス2」で作曲家デビュー。翌年には錬金術をテーマにしたアトリエシリーズの記念すべき第1作目にあたるマリーのアトリエザールブルグ錬金術士~」(1997年)にて、同じく当時ガストに所属していた山西利治氏とともに、明るく楽しく、ときに激しくもあるアトリエサウンドの基礎を築き上げる。その後もシリーズには最新作に至るまで(ガスト退社後も)ほとんど欠かさず参加していて、アトリエの楽曲は良曲揃いというお約束を守り続けている。複数の作曲家と共同で手がけるアトリエシリーズの他に、阿知波氏が単独で作曲をした初期の代表作は黒い瞳のノア ~Cielgris Fantasm~」(1999年)である。同作では石にされてしまった幼馴染を救うべく、主人公ノアが魔神を倒す旅に出ることになるが、そのオーソドックスなシナリオとは裏腹に、マルチエンディング制の導入により3年以内に魔神を撃破するという一応の目安を必ずしも遵守しなくても良い、RPGとしては破格の自由度の高さが特徴である。

www.youtube.com『zodiac』(黒い瞳のノア ~Cielgris Fantasm~/PS/1999年)

同作の通常戦闘曲として用いられるこの曲は、パラパラと舞い散るような音色が特徴的なイントロから始まる一曲である。ピアノの高音を散りばめながら奏でられる、どことなくエスニックな香りのするメロディーラインは、哀愁と緊張が綯い交ぜになった独特な空気感を漂わせて、特に間奏部分における即興風のピアノによる速弾きは、非常にスタイリッシュな仕上がりとなっている。阿知波氏のセンスが光る珠玉の良曲である。

氏はファンタジーRPGの作曲を多く手がけるなかで、2003年にはすこし毛色の違うシミュレーションRPG「大正もののけ異聞録」でも単独で作曲することになる。同作は大正時代の信濃(余談だがガストの本社は長野である)が舞台であるため、楽曲はそれに合わせていずれも純和風なサウンドが勢揃いしている。個性豊かな五人の主人公のうち一人を選択して進めていくことになる同作だが、キャラクターごとに専用の戦闘曲が用意されているという充実ぶりが魅力である。

www.youtube.com『氷面鏡』(大正もののけ異聞録/PS2/2003年)

巫女の少女・真奈井四季の戦闘曲として流れるのがこの曲である。彼女は自身の偽りの記憶を正し、本当の記憶を取り戻すために百鬼夜行の戦いに挑むことになるが、そうした悲壮な決意を、パンチの効いた凛々しく勇ましい音使いで表現している。曲名にある氷面鏡(ひもかがみ)とは氷の表面を鏡にたとえた冬の季語で、この曲以外にも同作の楽曲は和の世界観にあわせて季語由来のもの多い。ちなみに曲の冒頭部分は、同じ年に発売されたヴィオラートのアトリエ ~グラムナートの錬金術士2~」(2013年)における屈指の人気曲『疾風』(こちらも阿知波氏の作曲)のあのイントロによく似ているが、いずれにしても両方とも卓越したクオリティを誇る戦闘曲である。

2004年にはそれまでのアトリエのザールブルグ編、グラムナート編に一区切りついて、新たにイリス編が始動したのを受けて、氏が山西氏や中河健氏、土屋暁氏とともに培ってきたアトリエサウンドにも転機が訪れる。イリスのアトリエ エターナルマナ」(2004年)アトリエシリーズで初めて男性主人公を採用した意欲作で、シリーズ中最大の革新を成し遂げたという謳い文句通り、戦闘とシナリオに重きを置き、それまでの世界を救わない路線から思い切り本格的に世界を救う王道RPGへと変貌した。それにあわせて同作の楽曲は、従来の民族音楽調を継承しつつ、暴力的なまでに荒々しいハードロック・ヘビーメタル系の戦闘曲も多く収録されるようになった。こうした傾向は以降のシリーズでも連綿と受け継がれていき、アトリエサウンドに新風をもたらした。先に紹介した『Nefertiti』はまさにその最たる例で、一際鮮烈な印象を放ち続けているロックナンバーである。

イリス編が終結し、シリーズ10周年を記念する新章・マナケミアが開幕すると、こちらは学園ファンタジーらしいテイストになり、題名からアトリエがなくなったことからしても、いつものシリーズとはやはりだいぶ趣向が異なる仕上がりとなった。とはいえ、引き続き氏が担当する音楽の良さは評価され、前衛と後衛を瞬時に切り替えて連携を図る同作の特徴的な戦闘システムは好評を博している。こうした評価点は、原点回帰を謳ったDS三部作を経て、後に旧作と新作のいいとこどりを目指したロロナのアトリエ ~アーランドの錬金術士~」(2009年)以降の作品に受け継がれることになる。

アトリエシリーズとは別に、ガストの久しぶりの完全新作としてバンプレストと共同開発したムスメ調合RPGアルトネリコ 世界の終わりで詩い続ける少女(2006年)においても氏は土屋氏や中河氏とともに作曲を担うことになる。同作は詩(うた)が重要な役割を果たしていることから、ヒュムノス語と呼ばれる架空言語を用いたボーカル曲が数多く搭載されているのが特徴である。ただしボーカル曲の多くは土屋氏や稲垣貴繁氏、志方あきこ氏が作曲していて、阿知波氏の手がけたものは少数にとどまる。続編のアルトネリコ2 世界に響く少女たちの創造詩(2007年)では特定のエンディングでのみ流れる、男性(Dahna氏)と女性みとせのりこ氏)による甘美なデュエット曲『こころ語り』を作曲し、歌モノでも氏のセンスを発揮するに至った。

アトリエシリーズに話を戻す。アーランド編では中河氏や柳川和樹氏が中心で作曲をおこなっていたなかで、阿知波氏は同時期にPSPに移植された、ユーディーのアトリエ ~グラムナートの錬金術士~ 囚われの守人」(2010年)ヴィオラートのアトリエ ~グラムナートの錬金術士2~ 群青の思い出」(2011年)といった過去作の追加曲を多く手がけた。続く新章・黄昏編では、アーシャのアトリエ ~黄昏の大地の錬金術士~」(2012年)をはじめとする三部作ともメインコンポーザーとして復帰することになる。同作は滅びを迎えつつある黄昏の世界を舞台としているため、どことなく寂寥感漂うフォルクローレ風の儚げな楽曲が多く揃っている。

www.youtube.comSylpheed』(アーシャのアトリエ ~黄昏の大地の錬金術士~/PS3/2012年)

平原や野原といった採取地における通常戦闘曲として流れるこの曲は、氏の得意とするところの疾走感あふれる戦闘曲に、民族音楽のエッセンスをふんだんにトッピングした一曲である。リズミカルに奏でられるアコースティックギターの旋律が華やかで煌びやかな雰囲気を醸しつつ、エレキギターやピアノを効果的に組み合わせることで底知れぬ哀愁をも滲ませていて、黄昏の世界観を丸ごと音で表現した出来栄えとなっている。ちなみに曲名にあるシルフィードとは風の精霊のことであり、他の採取地で用いられる阿知波氏作曲の通常戦闘曲はいずれも四大精霊から取っている。

アーシャの発売後まもなく、氏は2012年7月にガストを退社し、以降はフリーランスの作曲家として活動することになる。黄昏三部作はもちろん、アトリエシリーズおよびガストの作品群にはその後も関わり続けている。2015年には黄昏編の終了に伴って新たに始動したソフィーのアトリエ ~不思議な本の錬金術士~」において、過去最多級の作曲陣の一員として参加し、アトリエサウンドを熟知した氏ならではの存在感を放つ。同作では昼夜の概念が導入されたことを受け、楽曲も時間の変化にあわせてインタラクティブに切り替わる仕組みとなっている。また、同じ年にガスト謹製の完全新作として登場した美少女×従魔×RPGよるのないくに(2015年)にも楽曲を提供し、柳川氏や浅野隼人氏とともに、アトリエサウンドとは一味も二味も異なるゴシックホラー風のダークファンタジーに見合った荘厳なサウンドを生み出す。続編のよるのないくに2 ~新月の花嫁~」(2017年)にも参加していて、メインテーマを筆頭に、同作の作風に沿った強く、儚く、美しい良曲を引き続きつくり出す。

www.youtube.com『Lucia』(よるのないくに2 ~新月の花嫁~/PS4PSV・NS/2017年)

同作のメインテーマとして、オープニングおよびラスボス戦で流れるのがこの曲である。教会の鐘を思わせる音色から始まり、エレキギターや柳麻美氏によるコーラスが加わって急激に盛り上がり、そこにAnnabel氏の憂いに満ちた繊細な歌声が重なることで、ますます切なさが加速する。オープニング映像とのシンクロ度合いや、ラスボス戦の因縁だらけのシチュエーション、救いようのない哀しみにあふれた歌詞(作詞は青木香苗氏によるもので、これは阿知波氏の別名義)と相まって、その相乗効果が生み出す悲愴感は、恐ろしいほど同作の世界観にマッチしている。曲名はラテン語で光を意味することばに由来するものだが、永遠の夜に閉ざされた世界に降り注ぐ一条の光のごとく、この曲は聴く者の魂を貫いてくれる。

2017年にアトリエシリーズが20周年を迎えると、その集大成として発売された「リディー&スールのアトリエ ~不思議な絵画の錬金術士~」や、歴代のキャラクターたちが一堂に会する街づくり×RPGネルケと伝説の錬金術士たち ~新たな大地のアトリエ~」(2019年)でも、阿知波氏はそのお祭りムードにあわせた華やかな楽曲を数多く書き下ろす。特にネルケに関しては、キャラクターの出演のみならず、過去作のアレンジ曲含め、随所に歴代シリーズとの繋がりを思わせる演出が練り込まれているのが特徴で、氏もここぞとばかりに腕によりをかけて作曲している。

www.youtube.com『Alchemia』(ネルケと伝説の錬金術士たち ~新たな大地のアトリエ~/PS4PSV・NS/2019年)

アバンタイトルで流れる同作の主題歌であるこの曲は、まさに阿知波氏の遊び心とアトリエシリーズへの思い入れが詰まった一曲である。作詞は例の如く青木香苗名義によるものだが、歌詞の一つ一つに過去作を彷彿させるキーワードがほぼシリーズの順番通りに挿入されているのが印象的で、シリーズサウンドをずっと手がけてきた阿知波氏だからこそ実現可能なものとなっている。歌詞の素晴らしさに加え、同作の飛びぬけて明るく賑やかな作風に沿って、そのメロディーラインはアコースティックな楽器を主軸に据えた民族的なテイストに仕上がっていて、ずばり錬金術を意味する曲名とあわせて、すべてにおいて王道ド直球な出来栄えである。

以下、参考までに阿知波氏本人による歌詞の元ネタ解説である。

今年はすでにネルケに加え、アトリエシリーズでは異例のナンバリング4作目にあたる「ルルアのアトリエ ~アーランドの錬金術士4~」(2019年)でも作曲をしていて、阿知波氏の活躍はとどまるところを知らない。先日公開されたガストの新作の続報が期待されるなかで、氏のこれからのキャリアにも引き続き目が離せない。

 

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ほぼ戦闘曲の紹介になりましたが、阿知波さんは何より戦闘曲が抜群に良いですよね。他にもメルルの『Estrella』とか『Astral Blader』とか、マナケミア2の『Roar of Delirium』とか、最近ではルルアの『Cygnus』あたりがとても好きで、枚挙にいとまがないです。まあそれらは今後じっくり紹介したいところです。参考までに、今まで格納した阿知波さんの楽曲をどうぞ。