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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#987 『異邦人の行方』(神保直明/剣の街の異邦人 ~白の王宮~/X360)

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エクスペリエンスがおくる死と“消滅”に抗うダンジョンRPG・剣の街の異邦人より、

神保直明作曲、『異邦人の行方』。終盤の異邦人ギルドなどで流れます。

円卓の生徒などで知られるエクスペリエンスのダンジョンRPGとして登場した本作。乗っていた旅客機が突如として消失し、気付けば異世界の光る蝶が舞う剣の街・エスカリオに迷い込んだ主人公は、仲間とともに元の世界へ戻る手立てを探して戦うことになる。ハクスラタイプのゲーム性が特徴で、主人公含め最大16人までの登場人物を自由にキャラメイクしてパーティを編成し、血統種(賞金首の魔物)などの強敵が蔓延るダンジョンに挑んでいく。キャラロストの概念があり、主人公以外はダンジョンで死亡した場合、生命点が残っていれば蘇生や療養で回復できるが、生命点がゼロになると永久に消滅する。ダークでシビアな世界観と、しっかりとした歯応えながらも遊びやすさへの配慮が窺えるゲームデザインが魅力的な仕上がりとなっている。後にPCに移植されたほか、黒の宮殿という題で追加要素を加えてVitaでも発売され、さらには海外版をもとにしたXboxOne版や、再びVitaで新システムを盛り込んだ新釈版が登場した。

本作の音楽を担当するのは神保直明氏。GENERATION XTH円卓の生徒などエクスペリエンス製の作品ではおなじみのフリーランスの作曲家である。本作では本格的なダークファンタジーの作風にあわせてアンニュイでドラマチックなシンフォニックサウンドが揃っていて、同じくエクスペリエンス製で世界観を共有するデモンゲイズ同様、一部の楽曲にクワイア風にチューニングされたボーカロイドを使用している(ON・OFF切り替え可能)。サウンドトラックはオフボーカル音源込みで収録されたものが初回限定盤に同梱されているほか、単体でも通常販売されている。

「不意の旅立ち」以降の異邦人ギルドで流れるのがこの曲である。異邦人ギルドは冒険の拠点だが、衝撃的な展開を経ていよいよ物語終盤へと突入する段階で曲が一新されることで、強く記憶に残り、傷心に染みるような印象を与える。ピアノ、弦のピチカート、アコースティックギター、フルート、ボーカロイドの歌声とが入り混じったイントロで始まり、すべての器楽も声楽も深い憂いを湛えた音使いで、沈み込むような哀愁の調べを奏でる。クラリネットの主旋律が入ると、しばらくボーカルは控えめな音量でそっと寄り添うが、48秒あたりから伴奏が盛り上がるにつれて、歌声が蝶のように天高く舞い上がっていく。1分18秒のサビではアコーディオンを伴ってストリングスが激しくも切ないフレーズを紡ぎ、魔術的な悲痛を滲ませる。残された者としての思いを抱えてクライマックスへ突き進む状況を息をのむほど美しく表現した一曲である。

一部イベントでも使用されています。このメランコリックな響きがたまらなく素敵ですね。オフボーカルは声の代わりにオーケストラでカバーしていますが、個人的にはボーカル入りの音源が好みです。『異邦人の行方 Vocal off ver.』、あわせてどうぞ。

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