VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1061 『Weight of a Doubt』(Thommaz Kauffmann/Dandara/PC・NS・PS4・XOne・iOS・And)

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Long Hat Houseがおくる2Dアクション・Dandaraより、

Thommaz Kauffmann作曲、『Weight of a Doubt』。ボス戦で流れます。

ブラジルのインディーゲームスタジオ・Long Hat Houseの代表作にあたる本作。圧政により崩壊の危機に瀕する黄昏の世界・Saltを舞台に、自由を取り戻すべく一人の女性・Dandaraが立ち上がることになる。抽象芸術を思わせる独創的な世界観のもとで繰り広げられるメトロイドヴァニア系のアクションである。経験値は自分好みのステータスに振り分けできるポイント制で、死亡すると死亡地点に経験値が留まる(回収する前に再度死亡すると消失する)ソウルライクなシステムを取り入れている。本作の最大の特徴は操作性で、移動方法は着地点を指定して瞬間移動するアクションに集約されているため、通常の走りやジャンプは存在しない。壁や天井など、上下逆さまでも張り付くことが可能で、高速かつ無重力な縦横無尽のアクション性を楽しむことができる。癖のある操作と世界観が魅力的な意欲作に仕上がっている。後に追加要素を含む拡張版のTrials of Fear Editionが登場した。

本作の音楽を担当するのはThommaz Kauffmann氏。ブラジル出身の作曲家で、普段からインディーゲームの作曲を中心に手がけている。Long Hat House製の作品に携わるのは本作が初めてで、Trials of Fear Editionでも引き続き追加曲の作曲を担当している。本作では退廃的で不可思議な作風にあわせて、シンセやピアノを軸に、寂寥感と夢見心地が混ざり合ったようなアンビエント系の楽曲が揃っている。サウンドトラックはBandcampやSteamのDLCを通じて販売されている。

ボス戦で流れるのがこの曲である。通常のステージ攻略も斬新だが、ボス戦はとりわけ演出やギミックが凝っていて独特な趣がある。そうした戦闘を彩るにあたって、非常に張り詰めた雰囲気が漂うピアノと、どこまでも果てしなく広がっていく響きを帯びたシンセパッドが見事に融合することで、さながら音に呑み込まれてしまいそうな没入感を生む。周期的にドラムが重めに響くことで、浮遊感だけでなく重厚な印象をも与える。1分15秒からは、元々シリアスな空気感を纏っていたピアノが、さらに緻密で理知的なフレーズを奏でるようになる。1分37秒でシンセが伸び伸びと歌うような旋律を紡ぐと、ピアノもドラムもその他の電子音も複雑に絡み合って深遠な中毒性を醸す。恐ろしくも神秘的な、卓抜したセンスに満ちた一曲である。

この曲を紹介してほしいというリクエストをいただきました。思わず身震いするような、得難い恍惚感のある曲ですね。トレイラーにも使われていて、映像とあわせて秀逸な出来なのであわせてどうぞ。

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