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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1250 『Wicked』(嘉生大樹/グランツーリスモ4/PS2)

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ポリフォニーデジタルがおくるレース&カーライフシミュレーション・

グランツーリスモより、嘉生大樹作曲、4の『Wicked』。レース曲の一つ。

自動車のリアリティを追求し続けるグランツーリスモシリーズのナンバリング4作目にあたる本作。実在のモデルから架空のコンセプトカーまで80メーカー・700車種以上のバラエティ豊かなクルマが収録されている。グラフィックや挙動が順当に強化されたのはもちろんのこと、プレイヤー操作で車を駆る従来のA-specモードに加えて、新たにAIドライバーに指示を出して運転させるB-specモードが搭載された点が特徴である。自力で操作せずとも最大3倍速でレースを見守ることが可能で、観て楽しむプレイスタイルを取れるようになった。また、実在のコースも多数追加され、フォトモードの導入とも相まって、より本物らしい、愛車で諸国漫遊するような体験を味わうことができる。シリーズ最大級のヒット作にふさわしい充実したボリュームと洗練された遊び心地を兼ね備えた仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは安藤まさひろ氏、大平勇氏、daiki kashoこと嘉生大樹氏、Alan Brey氏。安藤氏は当時、フュージョンバンド・T-SQUAREに所属していたギタリストで、大平氏と嘉生氏はフリーランスのミュージシャン、Brey氏はカナダ出身でロックバンド・Dakota Starのギター兼ベース担当である。このほかにもレースBGMとして国内外の気鋭のアーティストたちによるライセンス曲を聴くことができる。本作の音楽は、ロックやハウスなどを中心に、カーライフを彩る小粋なサウンドが揃っている。また、恒例のメインテーマアレンジをはじめ、過去作からのアレンジも含まれる。サウンドトラックについては、本作オリジナルの楽曲を収録したものが存在するが、一部未収録のものもある。

レース曲のうちの一つがこの曲である。英語ボーカル入りの曲で、作詞および唄はDakota Starによるものである。じわじわと溜めるギターイントロで始まり、7秒頃からパーカッションが勢いづいて徐々にボルテージを上げていく。14秒でギターのメインメロディーが入ると、一気に発散するかのように熱く激しく物哀しい音色が鳴り響く。が、ひとたびボーカルが加わると再び鬱屈とした印象を纏うようになり、歌うというより淡々とつぶやくような調子で言葉を紡いでいく。サビに至ってなお歌い方が大きく変わることはなく、1分50秒前後から何度も "There's no way out(逃げ場はない)" と繰り返すことで、鮮やかなのにやるせないような独特な空気感を漂わせる。続く間奏パートはシンセやギター、それに2分半以降はデジタルボイスを交えて盛り上げていき、ボーカルよりむしろインスト部分がメインと言えるほどメリハリ豊かな展開をみせる。特に2分57秒で一旦流れを止めてから再度ギターを加えて力強く疾駆するくだりが印象深い。格好良い曲調のなかに行き場のない苦しみが見え隠れするような一曲である。

今年のトリは私好みなボーカル曲です。良いお年を。