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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1251 『戦 ―いくさ―』(大嶋啓之/天穂のサクナヒメ/PC)

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えーでるわいすがおくる和風アクションRPG・天穂のサクナヒメより、

大嶋啓之作曲、『戦 ―いくさ―』。金行のダンジョンで流れます。

花咲か妖精で知られる国内の同人サークル・えーでるわいすの新作として登場した本作。武神と豊穣神の血を継ぐ女神・サクナヒメは、主神に献上する米の備蓄をうっかり吹っ飛ばしたかどで神界を追放され、罰として鬼が巣食うヒノエ島の調査を命じられたことを受け、島で人の子らと自給自足の生活を始めることになる。羽衣を駆使して軽快に駆けるハクスラ風の横スクロールアクションに、米づくりを事細かく再現した稲作シミュレーションを融合させた、一風変わったアクションRPGである。畑を耕し、種籾を選別・育苗し、田植えをおこない、水や肥料をやったり害虫や雑草を除去したりして生長を見守り、収穫期になったら稲を刈り取って干して脱穀して籾摺りで玄米に変え、そうして出来上がった米の質や量に応じてサクナヒメのステータスに還元される仕組みを取っている。このように米づくりの工程と奥深さがゲームサイクルや成長要素に密接に関わっている点が最大の特徴である。食事や四季を重んじる日本神話的な世界観や、アニメ調で描かれる表情豊かなキャラも魅力的で、総じてとても味のある仕上がりとなっている。数日差でスイッチとPS4でも発売された。

本作の音楽を担当するのは大嶋啓之氏。フリーランスの作曲家で、同人系の作品やPCゲームなどを中心に活動している。本作の音楽は和風のイメージに沿った、ときに長閑でときにシリアスな楽曲群が揃っている。琴や太鼓、尺八といった和楽器はもちろん、オーケストラやシンセも印象的に用いている。加えて、主題歌でもある田植唄のフレーズを様々な楽曲に散りばめていて、全体を通じて統一感と物語性のあるサウンドを楽しむことができる。サウンドトラックについては通常盤、デジタル盤、アレンジアルバムなど各種存在し、収録されている曲名は主題歌を除いて漢字一字と読み仮名という形式で固められている。また、大嶋氏のホームページに1曲ずつ記事を設けて楽曲解説がおこなわれている。

本作のダンジョンは五行に基づいて区分されているが、そのうちの金行のダンジョンで流れるのがこの曲である。物語後半に訪れることになり、城や砦といった敵の本拠に乗り込む場面に相当する。そうしたなか、曲冒頭で戦の号令となる陣貝を鳴らすことで、一気に身が引き締まるような臨場感を与える。続けて弦楽器や金管楽器、三味線などを組み合わせて分厚くけざやかな音色を奏で、和風×オーケストラならではの重みと凄みを感じさせる。17秒頃からメインフレーズが入ると、先鋒は笛が務め、吹き荒ぶような独特な響きを印象付ける。45秒以降、次鋒は琴が務め、閑雅で繊細で、なおかつ力強い演奏を披露する。1分12秒からは管弦楽器が優勢になり、そこに時折三味線をはじめとする和楽器が響くことで、徐々に壮大さが増していくなかでも和風な聴き心地を維持し続ける。1分41秒のサビでは再び笛が前線に立って華やかな調べを紡ぎ、管弦楽器・和楽器いずれも渾身の勢いで戦の山場を盛り上げる。手ごわく物々しい曲調だが、士気が湧き上がる感覚を味わえる一曲である。

新年一発目は盛り上がる和風曲にしましょう。大嶋さんの解説記事には楽器選びや作曲時に意識したことなどが書かれていて、とても興味深いのであわせてどうぞ。

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