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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1259 『戦雲』(齋藤博人/ティアリングサーガシリーズ ベルウィックサーガ/PS2)

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エンターブレインがおくるシミュレーションRPGベルウィックサーガより、

齋藤博人作曲、『戦雲』。5章や7章の任務で流れます。

軍記モノのシミュレーションRPGティアリングサーガシリーズの第2弾にあたる本作。侵攻を続けるラーズ帝国と、ヴェリア王国を中心とするベルウィック同盟が相争うなか、西方の同盟国であるシノン公国の公子にして騎士団長を務める青年・リースは、先に就任したヴェリアの新王の要請に応じて参戦することになる。シリーズの名を冠しているが、世界観やシステムまわりの繋がりは薄い。シナリオ面では主人公の立場上、歴史の影で王家を支える裏方の苦労を描いている。戦闘はHEXで区切られたマップ上でおこない、フェイズ制ではなく彼我の行動順が入り乱れるターン制を採用している。各ユニットに加えて馬にもHPが設定されているほか、アイテムや資金などのリソースは有限(かつ慢性的に不足気味)で、RPGと言えどレベル上げによる恩恵は限定的であることから、プレイング重視なゲームバランスに調整されている。傭兵を雇うには雇用費が都度かかる点や、ユニットの捕縛の概念がある点、やり込み要素として勲功や名声といった評価項目が存在する点など、歯応えのあるシステムが多く搭載されている。状況に即した対処能力を試される仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは44.0(上野義雄)氏、齋藤博人氏、関美奈子氏、立花瞳氏、安井洋介氏。44.0氏は主にテレビやCMなどへの楽曲提供を手がけるドラマー兼作曲家である。齋藤氏はフリーランスの作曲家で、エンターブレイン製の作品でいうとクロスハーミットでの作曲経験がある。関氏はかつてアスキーエンターブレインの関連会社)に所属していた作曲家である。立花氏は有限会社プロデューサーズワークショップ所属の作曲家で、44.0氏と関氏ともども前作の作曲にも携わっている。安井氏は当時、音楽制作会社スーパースィープに所属していた作曲家で、本作における作曲の担当分は少数で、主としてサウンドプログラミングをおこなっている。本作ではファンタジーの軍記モノの作風に沿った表現力豊かなオーケストラサウンドが揃っていて、じっくり腰を据えて遊ぶのに誂え向きな上質な重厚感が漂っている。サウンドトラックはリマスターが施された状態で3枚組で収録されている。

5章「城砦防衛」、7章「公子救出」、12章「闇の司教」、14章「集いし者」の任務におけるマップ画面で流れるのがこの曲である。これらの任務は、精強なボルニア公国軍を相手に劣勢を強いられる防衛戦だったり、ターン制限が厳しい攻城戦だったりして、どれも一筋縄ではいかぬ戦いばかりである。小刻みに武者震いするように響くストリングスで始まり、焦燥を煽るとともに身も心も奮い立つ使命感を漂わせる。6~8秒や15~17秒でリバースシンバルを鳴らしたり、24秒から弦の高音を奏でたりして、徐々に戦の臨場感を強めるが、なかなかイントロが明けず焦らされることになる。39秒でようやく変化が生じるも、ブラスやコーラスが物々しく響くことから、依然として油断ならない空気感に満ちている。1分手前から本格的に主旋律が加わり、それまで築き上げてきた印象を引き継ぐ形で力強い悲愴感を滲ませる。全体的に重く厚く垂れ込めるような曲調だが、2分24秒からしばらくハープが甘美な間奏を紡ぐほか、3分半過ぎには一転して管弦楽器が勇壮な演奏を披露するなど、音を通じて刻々と戦況が移ろう様子が窺える。戦の手ごわさと、戦場で身を賭す者たちの覚悟が伝わってくる一曲である。

この曲を紹介してほしいというリクエストをいただきました。どう言ったものか……すごくドラマが詰まっている感じがする曲ですね。サントラ音源もあわせてどうぞ。

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