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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1289 『敵』(川井憲次/DEEP FEAR/SS)

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システムサコムがおくるアクションアドベンチャー・ディープフィアーより、

川井憲次作曲、『敵』。ラスボス戦で流れます。

セガサターン末期のオリジナルホラーゲームとして登場した本作。大気圏外より太平洋上に謎の物体が落下し、回収に向かった潜水艦が暴走して深海基地の極秘セクターに激突した事態を受け、民間レスキュー会社の新人チーフ・ジョンは救助に赴くうちに絶体絶命の恐怖を味わうことになる。深海基地という閉鎖空間で描かれる海洋ホラーもので、未知のクリーチャーとの銃撃戦、プレイヤーの向きによらず前進・後退・右/左回転の入力ボタンが固定されている移動方法(いわゆるラジコン操作)など、ジャンルの定番要素をきっちり踏襲している。本作独自の特徴として挙げられるのはエア(酸素)の概念で、時間経過や発砲に応じて室内にあるもの、次に手持ちの非常用呼吸器具、最後は主人公の肺内にある酸素が徐々に減っていく。絶えず酸欠の恐怖が付き纏う一方で、弾薬も回復剤も酸素も、施設内に点在する装置や保管場所から容易かつ無制限に補充できるため、リソース管理という観点ではマイルドな調整が施されている。作風や物語面では終始ハードで暗澹とした雰囲気が漂っていて、そこそこ気迫がある仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは川井憲次氏。主にアニメや映画の劇伴を手がける作曲家である。氏の起用は、クリーチャーデザインの韮沢靖氏と並んで本作の目玉要素として扱われている。本作ではホラーらしい重く昏い曲調が多く、そのなかでも深海を舞台としていることから、ゆったり包み込むようなものや、じわじわと浸蝕してくるようなものが充実している。プレイ中は無音や環境音が中心だが、場面によってストリングスやパーカッション、歪んだシンセ系の音色を用いて緊張感を煽ったり、神秘的なクワイアや鐘を用いて甘美で不吉な空気感を漂わせたりしている。サウンドトラックは通常盤のほか、連動企画のサウンドドラマ用のイメージソングなどを収録したものも存在する。

ラスボス戦で流れるのがこの曲である。知られざる計画の真相が判明するや否やラスボスと対峙することになる場面を彩るにあたって、冒頭から禍々しいほど重苦しくブラスを響かせて恐怖心をそそる。10秒頃でオーケストラヒットが入り、それを境に打楽器と弦楽器が荒ぶり出すと、退きたくても戦うしかない絶望的な悲壮感が漂うようになる。17秒以降の主旋律は、ブラスと男声コーラスを重ね合わせることで、非常に厚みと圧迫感のある響きを生み出している。常に迫力抜群だが、50秒でシンバルが一際大仰に轟くと、それを合図に再びストリングスがざわめき出し、さらに進んで1分5秒でピークに達するのと同時に一段落つく。間を置いて1分22秒頃からすこしずつ勢力を取り戻すと、後続のフレーズは今まで以上にコーラスやストリングスをフィーチャーして勇猛かつ焦燥感あふれるメロディーを奏でる。心臓の奥までひりつくような刺激に満ちた一曲である。

この曲は、ラスボス戦後のエンディングシーンの曲と聴くことでいっそう真価が発揮される気がします。『浮上 ~ENDING~』、あわせてどうぞ。

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