VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1434 『竜糧民食』(椎名豪/ミスタードリラー ドリルランド/GC)

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ナムコがおくる穴掘りアクション・ミスタードリラーより、

椎名豪作曲、ドリルランドの『竜糧民食』。主にホラーナイトハウスの後半で流れます。

色とりどりのブロックを掘って進むアクションパズルミスタードリラーシリーズの5作目にあたる本作。ドリラー協会と地底王国が共同開発したテーマパーク・ドリルランドにやってきた主人公のススムとその一行は、様々なアトラクションに挑むことになる。基本的なゲーム性は、同色でくっつくブロックを有効活用し、上から落ちてくるブロックを避けて酸素を補充しつつ地下へと掘り進んでゴールを目指す、というシリーズ恒例の形式を踏襲している。本作では5つの個性豊かなアトラクション(ステージ)が収録されていて、世界一周や遺跡探検、恐怖体験など、アトラクションごとに雰囲気が一変する。それぞれ使用できるキャラや用意されているギミックが異なり、なかには酸素や同色くっつきの概念がない代わりに罠だらけだったり、使い方次第で攻略の助けにも邪魔にもなるイベントが発生したりするステージが存在する。ソロプレイの他に最大4人まで遊べる対戦モードや、各種おまけを閲覧できる館、GBAミスタードリラーエースとの連動要素なども搭載されている。総じて楽しく忙しく奥深い仕上がりとなっている。後にオンライン対戦をはじめとする追加要素を備えた復刻版のアンコールがスイッチ、Steam、PS4、PS5、Xbox One、X|Sに登場した。

本作の音楽を担当するのは椎名豪氏。当時ナムコに所属していた作曲家である。ミスタードリラーシリーズにはアーケード版初代から携わっているシリーズサウンドの立役者である。本作ではこれまでの作品でもみられた、民族音楽やジャズ、ボーカル入りなどを織り交ぜた独自の作風を受け継ぎつつ、生の楽器の音色をふんだんに取り入れることでいっそう聴き応えのあるサウンドを生み出している。使用される音色のなかにはオショ(ジンバブエに伝わるマラカス)やホーミー(喉歌とも言われるモンゴル伝統の歌唱法)など、あまり類を見ないラインナップが揃っている。サウンドトラックは未発売だが、作中にBGMを鑑賞できる音楽館が存在する。

ホラーナイトハウスの後半で流れるのがこの曲である。怪しい屋敷を舞台に、迫りくるゴーストを聖水で退治しながら掘り進めることになる。同じホラーナイトハウス内でも複数の楽曲が流れ、レベルによって各楽曲の流れる場面が異なる。そうしたなか、主に後半を彩るのがこのオリエンタル×エレトロニック×ジャズ風のナンバーである。はじめはミニマルでミステリアスな電子音で始まり、12秒からケーナと思しき笛の音が入ると民族色が強まっていく。23秒で雷鳴のような効果音とともにバイオリンが加わると優雅な雰囲気が漂い、ややあって50秒頃からピアノやパーカッション、ベースが参戦するとジャジーな響きを帯びるようになる。ミニマルかと思えば民族風、優雅な弦楽重奏かと思えばジャズ、といったように、すでに十分に予測困難な変遷を辿っているが、さらに1分5秒で甘美な二胡の音色が加わることで役者が揃う。二胡が旋律を紡ぐ間はストリングスが伴奏を務めて幽玄な合奏を披露するが、笛に交代した暁にはブラスも交えたスウィング感満載の演奏へと様変わりする。しかし徐々に境目は取り払われ、1分59秒~2分3秒で笛と弦が幽玄な協演をしてみせたり、2分半以降で二胡の見せ場を挟んだ後はギターやブラスが顕著な盛り上がりをみせたりする。特筆すべきは3分48秒からで、笛と入れ替わるように二胡が入り、粋な電子音やピアノを組み合わせながら、曲終盤に向けていっそう味わい深さが増していく。5分を過ぎてなお聴かせどころが尽きることなく魅せ続けてくれる。果てしなく豊麗な一曲である。

新年一発目はどことなく正月っぽくて辰年っぽいのにしてみました。