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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1341 『Liquid Air』(椎名豪/エースコンバット3 エレクトロスフィア/PS)

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ナムコがおくるフライトシューティング・エースコンバットより、

椎名豪作曲、3の『Liquid Air』。ミッション「REALITY DISTORTION」で流れます。

エースコンバットシリーズのナンバリング3作目にあたる本作。2040年、国家に取って代わって企業が幅を利かせる近未来を舞台に、主人公は治安維持対策機構・UPEO所属のパイロットとして、巨大資本を持つゼネラルリソース社と先端技術を持つニューコム社の対立に介入することになる。写実的なミリタリー路線を部分的に残しつつ、本作では架空の戦闘機や電脳空間を前面に押し出すことで、シリーズのなかでも異色とされる前衛的なSFアニメ風の路線を取っている。前作までは物語の比重は小さかったが、本作から本格的な描写が加わり、5つに分岐するマルチエンディング制・全52ミッションの濃密な物語を追体験することができる。ボイス付きで充実したアニメシーンやニュース報道風の語りなど、見た目も中身も徹底的に世界観を反映させた要素が揃っている。実際に操縦するパートでは、空や煙の質感に至るまでつくり込まれた美麗な映像表現が目を引く。シリーズで初めて視点操作が導入され、任意でカメラを動かしたり、敵機に追従する視点に切り替えたりすることができるようになった。また、ミサイル等の選択可能な兵装の追加、ミッション後のリプレイ鑑賞や戦績評価の導入など、後のシリーズで標準搭載されることになる新要素も数多く盛り込まれている。大胆に刷新しつつ、以後の作品に確かな布石を打った意欲作に仕上がっている。

本作の音楽を担当するのは大久保博氏、柿埜嘉奈子氏、椎名豪氏、中川浩二氏、中西哲一氏、辰田朋子氏。柿埜氏、椎名氏、辰田氏は当時、大久保氏、中川氏、中西氏は現在もナムコ(現バンダイナムコ)に所属する作曲家である。このうち中西氏が本作のサウンドディレクター兼メインコンポーザーを務めている。大久保氏と中西氏は前作から引き続きシリーズに参加していて、それ以外はシリーズ初参加である。複数人体制ではあるものの、楽曲の大半は中川氏と中西氏が作曲していて、他のメンバーは1~4曲の担当に留まっている。本作ではSF風の路線にあわせて音楽もテクノやアンビエント系のフューチャリスティックで浮遊感のある雰囲気に統一されている。サウンドトラックについては、ゲーム内の音源を収録したダイレクトオーディオと、PSで再生するためのスペシャルデータを含んだアペンドディスクの両方が2枚組で収録されている。

ミッション「REALITY DISTORTION」で流れるのがこの曲である。物語後半、エンディングに直結するニューコム・ウロボロスルートに入ってからの初任務で、革命を遂行するための鍵となる人物の救出を目的とする。冒頭からぐわんぐわん揺さぶるワブルベースを響かせてほろ酔い気分を生み出した後、7秒からさらさらと雨音のようなものが入るのに続いて、モールス信号を連想させる電子音が鳴り渡る。曲全体を通して雲を掴むような漠然とした空気感が漂っていて、28秒頃から入る音色が主旋律のような立ち位置ではあるが、何か異様な響きを帯びている。まるでそれは電気的に処理した象の鳴き声のようで、それが他の電子音や打楽器と組み合わさることで奇妙な哀愁を醸している。55秒あたりからどこからともなくオルゴールが流れ始めると、夢見心地に浸らせてくれるような、それでいて周囲がやたらざわめくせいで安眠はできなさそうな、これまた奇妙な印象をもたらす。このように筆舌に尽くしがたい調子が最後まで続く。只ならぬ妖しさに満ちた一曲である。

熱というか水に浮かされたような曲、みたいなイメージです。良いものですね。