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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1405 『Draw!』(Ryan Ike/West of Loathing/PC)

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Asymmetric PublicationsがおくるRPG・West of Loathingより、

Ryan Ike作曲、『Draw!』。通常戦闘で流れます。

Asymmetric Publicationsの代表作であるブラウザ向けMMORPG・Kingdom of Loathingのスピンオフにあたる本作。王国より西の開拓地を舞台に、辺鄙な農家出身の主人公は立身出世を夢見て旅立つことになる。スラップスティックコメディ調の一人用RPGで、本家同様に全編ほぼ白黒でシュールな棒線画で描かれている点が特徴である。開始時に主人公の名前、性別、クラス(肉弾戦型、魔法型、遠距離型のいずれか)を決めるキャラメイク要素があり、冒険を進めるなかで任意で仲間を連れていくことができる。戦闘はシンプルなターン制コマンドバトルを採用していて、悪党やら殺意に満ちた牛やらの胡乱な敵を成敗していく。装備を整えたりスキルを開放したり、様々なおつかいをこなしたり、ときにはサルーンイカサマありのポーカーをしたり、自由度が高く奇想天外な旅路を楽しむことができる。とにかくギャグや言葉遊びが大量に仕込まれていて、会話や展開の可笑しさはもちろん、固有名詞やフレーバーテキストなど至るところに遊び心が散りばめられている。ビジュアル的にも徹底して棒線画にこだわったうえでバラエティの豊富さや動きの滑らかさも両立させることで、一種独特な味わい深さを生み出している。日本語未対応だがユニークでユーモラスな会心の仕上がりとなっている。後にスイッチやアプリに移植された。

本作の音楽を担当するのはRyan Ike氏。アメリカ出身のフリーランスの作曲家で、ゲーム音楽の分野を中心に活動している。Asymmetric Publications製の作品に携わるのは本作が初めてで、後に続編のShadows Over Loathingでも作曲することになる。本作は西部劇の世界観であるため、音楽もそれに合わせてバンジョーを軸としたウェスタンな楽曲が揃っている。なかにはディスコ風やラグタイム系のものもあり、いずれもうまく本作の作風に溶け込んでいる。サウンドトラックについては、本編の楽曲を短いジングル等も含めて収録したものと、DLCの追加曲のみを収録したものがそれぞれ存在する。

通常戦闘で流れるのがこの曲である。残響する鐘の音と小刻みに鳴るシロフォンによるイントロで波乱の幕開けを予感させ、2秒頃から鍵盤ハーモニカの長く引き伸ばした音色が響くことでますます没入感を高める。再び鐘を撞く7秒あたりから濃厚なリゾネーターギターの音色と、その後ろで併走するバンジョーの伴奏が加わると、一気に西部らしい空気感を醸し出す。イントロ明けの22秒以降からシロフォンが鳴りを潜める代わりに太鼓が周期的に刻まれるようになり、40秒からは鐘の代わりにトランペットを折よく挿入することで、徐々に壮大な行進曲然とした曲調へと移り変わっていく。53秒~1分8秒で一旦シロフォンと鐘が戻ってくるが、その後には一転して仰々しいクワイアが響き渡り、いよいよ荘厳な雰囲気に包まれていく。機が熟したところで1分43秒からトランペットとシロフォンの正念場があり、通常戦闘曲どころかメインテーマばりの叙事詩的な盛り上がりをみせる。一連のフレーズが終わった後、2分16秒にはタンバリンが、そして2分33秒にはカスタネットが加わり、双方が同時に鳴り止む2分49秒以降にはさらなる見せ場が待ち構える。曲終盤まで聴き飽きない、終盤に近付くほど聴き入らせてくれるような一曲である。

通常戦闘曲というと前半でぐっと盛り上げる早熟型の曲展開が多いと思いますが、これは大器晩成ですね。ちなみにDLC追加曲にはテンポを上げたロックリミックス風の『Ecto Perfecto』という戦闘曲がありますので、そちらもあわせてどうぞ。

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