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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1440 『エリンギャー谷』(佐藤天平/天使のプレゼント マール王国物語/PS2)

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日本一ソフトウェアがおくるミュージカルRPGマール王国より、

佐藤天平作曲、天使のプレゼントの『エリンギャー谷』。エリンギャー谷で流れます。

メルヘンチックなファンタジーRPGにミュージカルの要素を取り入れたマール王国シリーズの3作目にあたる本作。一話ごとに主人公や時代が異なる全5話+おまけの全員集合シナリオから成るオムニバス形式の物語が収録されている。歴代主人公のコルネットやクルルはもちろん、敵役のマージョリーやアクージョ、さらには過去に遡って古代文明を生きたコルネットの母親・シェリーに至るまで、様々なキャラにスポットライトを当てている。ときにコミカルでときに切ない作風とミュージカルを用いた演出は本作でも健在で、新たにフィールドが3Dになったことで立体的にキャラが動き回る様子をみられるようになった。戦闘は最大4人まで編成可能な4チーム、合計16人が参加できる賑やかなもので、仲間にできるユニットや組み合わせ次第で使える合体技が多く用意されている。本編のボリュームは小粒だが、おまけシナリオの存在もあってか育成の幅が充実していて、レベル上限は数千、ダメージは数万単位という強気なやり込み要素を楽しめる。総じてシリーズ完結作らしい遊び心が詰まった仕上がりとなっている。後にスイッチ、PS5、Steamに移植された。

本作の音楽を担当するのは佐藤天平氏。日本一ソフトウェア製の作品ではおなじみの作曲家で、マール王国シリーズでは初代から連綿と携わっている。例によってインストゥルメンタルの楽曲はもちろん、ミュージカル用のボーカル曲の作曲も手がけている。本作では一話一話が短めでミュージカルシーンが限られている都合上、ボーカル曲はすくなく過去作からの流用が大半を占める。そうしたなかでも温かみと華やかさを兼ね備えたシリーズサウンドの魅力はしっかり受け継がれている。サウンドトラックについては、半数の楽曲を収録した市販のものと、初回限定盤に付属する形でより多くの楽曲を収録したものが存在する。

エリンギャー谷で流れるのがこの曲である。エリンギャー(人語を話すエリンギの種族で、本シリーズのマスコットキャラ)たちが暮らす集落で、前作や前々作でも登場するが本作では専用の曲が流れる。どことなくプリミティブな印象をもたらすシロフォンのイントロで始まり、8秒頃から低音のベースが加わって渋く趣のある伴奏を奏でる。17秒あたりから断続的にパンフルートのフレーズが入ると、しばらくはしっとり融け込むような響きがあるが、徐々に37~40秒でみられるように存在感を増していく。42秒から雰囲気が変わってシンセストリングスやシロフォンがより活き活きと明瞭に響くようになると、それに合わせて50秒以降からパンフルートが心置きなく陽気なメロディーを紡ぎ出す。野性的で好奇心くすぐる第一印象から、気付けば牧歌的で親しみやすい曲調へと移り変わっている。1分6~7秒の煌びやかな音階を境にシロフォンが隣り合う音色を小刻みに行き来するようになり、ますます瑞々しい聴き心地を生み出す。全体的には明るい曲と言えるが、特に1分41秒以降など高音が目立つパートには独特な哀愁が漂っている。噛めば噛むほど味が深まる一曲である。

外伝のマールじゃんにこの曲のアレンジがあって、良い意味ですこしチープな音源が心地良いです。あわせてどうぞ。

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