VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1406 『9-8』(荒木泰介/ドンキーコング/GB)

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任天堂がおくるアクション・ドンキーコングより、

荒木泰介作曲、GB版の『9-8』(仮称)。9-8面で流れます。

初代アーケード版のリメイクとして、ふぁみこんむかし話シリーズで知られるパックスソフトニカが開発した本作。ヒロインのポリーンをさらって逃げるドンキーコングを追ってマリオが冒険することになる。全4面構成だった原作から大幅にボリュームアップし、本作では主に4面ごとで1セットとなる全101面に再構成されている。4面中3面は道中で鍵を見つけて扉を目指すアクションパズル的なつくりである。締めの1面はドンキーコングの元へ辿り着くことを目的とし、さらに各ステージ(ワールドに相当する上位区分)の最後にはドンキーコングとタルを投げ合うボス戦が待ち受ける。マリオの性能は原作と比べて飛躍的に向上し、逆立ちやバック宙、ロープを使って高く遠くへ跳ぶ大車輪に至るまで、豪快なアクションを繰り出すことができる。加えて、足場やはしごを任意の場所に設置して道を切り拓く創造力や、ただ鍵を運ぶだけに留まらず(鍵を担いで運ぶ間はアクションが制限されるため)ときには鍵を投げたり攻略ルートを練ったりする発想力が試される。ステージは都会から大自然まで見た目も仕掛けも多彩で、スーパーゲームボーイ対応作品であるため環境次第でカラー付きのグラフィックを楽しめる。総じて中身の詰まった仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは荒木泰介氏。当時パックスソフトニカに所属していた作曲家兼プログラマーである。氏は作曲家としてよりもプログラマーとしてクレジットされることが多いが、本作では作曲専任で単独で手がけている。本作では一部原作からのアレンジ曲が存在するものの、大部分は新曲である。アップテンポでチャーミングな作風を中心としつつ、特に後半のステージにかけてメリハリをつけて鋭い高音や重い低音を駆使した表現力豊かな楽曲が揃っている。また、スーパーゲームボーイ環境下では一部音質や音源に差分がある。サウンドトラックは未発売のため、曲名は便宜上の仮称とする。

9-8面で流れるのがこの曲である。全101面中の100番目のステージであり、前述の通り本作は4面で1セットという計算上、当初見える範囲ではここがラストステージである(101面はその後に出現する)。長い追いかけっこの果てに辿り着いた塔の頂上でドンキーコングと対決するボス戦を彩るにあたって、まずは行進曲のように分厚く整然としたリズムで戦意を高める。早くも3秒から主旋律が入ると、はじめは中音域で勇ましさと切なさのバランスが釣り合った調べを奏でるが、やがて16秒からオクターブが上がって高音域に移ると切なさが大きく強調されるようになる。が、28秒からは同じ高音域でも新たなフレーズを取り入れ、副旋律の刻み方が変わることで、潔い勢いを帯びていく。42秒で再び元のフレーズに戻るが、高音域のままでも切なさが薄れていて、その勢いに乗じて47秒から鮮やかな高速音階を披露する。続けて畳みかけるように55秒から粘り強く高音を反復するようになり、1分1秒以降の迫力はさることながら、1分11秒には音を滑らせるスライドを用いることで、まるでヘヴィメタルのギターソロを聴いているかのような錯覚を起こさせる。戦い進めるうちに加速度的に強まっていく決戦の昂揚感を巧みに表現した一曲である。

この曲を紹介してほしいというリクエストをいただきました。何度聴いてもこの疑似ギターソロは痺れますね。