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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1436 『荒天の海原』(山下康介/信長の野望・嵐世記/PC)

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コーエーがおくる歴史シミュレーション・信長の野望より、

山下康介作曲、嵐世記の『荒天の海原』。沿岸国における合戦シーンで流れます。

上記動画の17:00から18:28まで。

戦国の世で天下統一を目指す信長の野望シリーズの9作目にあたる本作。開始時にシナリオと大名を選んで乱世を統べることになる。シナリオは初期4つ+クリア後1つ、追加販売2つの計7つが収録されていて、登場する武将は1300人を超える。前作までの箱庭路線から変わってリアルタイム戦闘を取り入れ、プレイヤーの手で地道に内政に勤しむのではなく武将に奉行を任命して半自動的に進める形式へと刷新された。大名家とは別に、新たに諸勢力と呼ばれるNPCが津々浦々に登場するようになり、敵に回すと厄介である分、物資援助等を通じて良好な関係を築ければ頼もしい味方になり得る。諸勢力にはそれぞれ特色があり、たとえば国人衆であれば土着の戦闘力として合戦に参加したり、寺社衆であれば一枚岩ではなく宗派ごとに関係が影響し合ったり、忍者衆であれば工作や謀略に重宝したりする。脇役というには非常に侮れない戦力を誇るため、しっかり動向を窺ったうえでいかに諸勢力を懐柔して有利に戦うかが攻略の肝となる。従来の作品からシステムを大きく見直したことで遊び心地やゲームバランスがだいぶ変わり、乱世の臨場感が強調された仕上がりとなっている。後に追加要素を加えたパワーアップキットが登場したほか、PS2Xboxに移植された。

本作の音楽を担当するのは山下康介氏。映画やドラマの劇伴作曲で活躍する作曲家で、信長の野望シリーズには7作目の猛星録から参加している。本作以降も13作目の天道まで作曲を一任されている。本作では和風とオーケストラを巧みに組み合わせた風流なサウンドが揃っていて、大名家だけでなく国衆にも焦点を当てているためか、全体的な曲調はどちらかというと勇ましさよりも悲しさ、力強さよりも手強さが目立つ。サウンドトラックは本作単体では未発売だが、嵐世紀~天道の5作まとめて収録した至上音盤や、シリーズを網羅した30周年記念盤に本作の楽曲が含まれる。

沿岸国における合戦シーンで流れるのがこの曲である。前述の通り本作では戦闘がリアルタイム進行になり刻一刻と移ろいゆく戦場をみられるようになったが、この曲はまさにそうした臨機応変の相が色濃く反映されている。切迫した響きを帯びた弦楽器に、雨粒の如く冷たく断続的に散らされるピアノを組み合わせて、開始早々から一波乱ありそうな張り詰めた雰囲気を醸し出す。10秒頃でフルートが加わるとしばらくは穏やかな演奏を披露するが、16秒頃を境ににわかに勢いづく。高音を担う弦楽器、低音を担う管楽器、リズムを担う打楽器、それぞれ役目が与えられるなかでも特にピアノの使い方が印象深い。はじめは雨粒に思えたが、今や打楽器ともども重く厳めしく鳴り渡り、さながら海を激しく打ち叩く豪雨のような響きを帯びるようになる。他の楽器も迫力十分で、荒れ狂うばかりかと思いきや39~41秒で澄んだ笛の音が聴こえたり、以降さらに管楽器の勢力が増したりする。55秒で再び笛の見せ場が到来し、つい先ほどまで緊張感に満ち満ちていた弦楽器は一転して波が引いたかのように優しく静かに奏でられる。予期せぬ波に揉まれながらも立派に戦い抜く戦場の様子がありありと思い浮かぶ一曲である。

この曲を紹介してほしいというリクエストをいただきました。戦の前に流れる『深謀の宴』の壮大なオーケストラで士気を十二分に高めてからこの曲に至る流れはたしかに強烈ですね。『深謀の宴』(下記動画の11:17~12:30)もあわせてどうぞ。

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