日野槙邑子作曲、『Dancer in the Mirage』。庭園ステージで流れます。
その名の通りSNKの歴代作品のヒロインたちが集う自社クロスオーバーとして登場した本作。目を覚ますと謎の館にいて恥ずかしい衣装を身に纏っていたヒロインたちは、原因の解明と館からの脱出を目指して戦うことになる。KOFや餓狼伝説など多数の格ゲーから計14人(有料DLCで+4人)のヒロインが参戦していて、なかには女体化しているキャラも含まれる。対戦は2対2の2Dタッグバトル形式で、手前で戦うアタッカーと奥で支援するサポーターを適宜交代しながらワンボタンで様々な技とコンボを繰り出して試合を進めていく。体力ゲージは各チーム一本、たとえ体力が尽きても試合が終了せず戦い続けられる仕組みで、試合を決着させるには体力を十分に削った段階でトドメのドリームフィニッシュを放つ必要がある。クロスオーバーもの特有のカジュアルさに見合うように、操作や駆け引きは極力簡略化されていて、コマンド入力はもちろん、しゃがみの概念、ガード時の上・中・下段の区別なども存在しない。その代わり、戦況を覆すアイテム類が充実しているほか、キャラの着せ替えや鑑賞用の機能も搭載されている。グラフィックやキャラモデルの質が今一つ物足りなかったり、オンライン対戦のマッチングまわりが大味だったりするが、お祭り感覚でノリの濃さを味わえる仕上がりとなっている。後にアーケードやSteamに移植された。
本作の音楽を担当するのは麻中"sha-v"秀樹氏、北直樹氏、佐々木みのり氏、日野槙邑子氏。いずれもSNKに所属する作曲家である。このうち麻中氏はキャリアが長く本作のサウンドディレクターを務めているが、他三名はKOF14以降の参戦となる比較的新鋭の顔ぶれである(日野氏は入社当初はパチスロ担当だったようである)。本作では麻中氏と日野氏が中心となって大半の作曲や過去作のアレンジを手がけていて、北氏はエンディングテーマ担当、佐々木氏はジングル2種とステージBGM1曲の作曲のみに留まっている。本作の音楽はシンセ系のキラキラしたものや、ストリングスやハープシコードを用いた嫋やかなものなど、ヒロインたちの熾烈な戦いぶりを彩る絢爛な楽曲が各種取り揃えられている。サウンドトラックについては、初回限定盤に一部楽曲を収録したものが同梱されていたほか、DLC追加曲込みで収録したものがイベントで販売されたり、デジタル向けにSteamのDELUXE PACKに付属されていたりする。
庭園ステージで流れるのがこの曲である。上品なタイルと色鮮やかな花々で彩られた空間で死闘を演じる様子を、アップテンポでエレガントなワルツ風の曲調で活き活きと表現している。冒頭の第一音でよく通る鐘の音が鳴り渡り、それと同時にハープシコードとピアノが短く歯切れ良く演奏し出すことで、瞬く間に優雅で妖艶なムードが醸成される。5秒から分厚いバスドラムやせわしないシンセストリングスが加わると、徐々に狂熱的な響きを帯びていく。17秒から始まるバイオリンのメロディーには舞い踊るような軽快さがあるが、29秒で楽器が増えると独自の威圧感を漂わせるようになる。その後、53秒で新たなフレーズに突入すると、壮大だけどどこかやるせないような、盛り上がろうにも盛り上がり切れない不安定な印象を与える。そうやって焦らした分、1分16秒からハープシコードが華麗な演奏を披露したときのインパクトは計り知れず、続けて1分22秒からストリングスも一緒くたになって協奏するときには一種異様な昂揚感に包まれる。やがて一連のフレーズを終えて収束する段になると、1分40~45秒でストリングスの低音が響いて深い余韻を残しながらループに至る。まるで出口のない迷路のように、一度聴いたら抜け出せない魅力を湛えた一曲である。
この曲を紹介してほしいというリクエストをいただきました。曲名も素敵ですね、蜃気楼のなかの舞姫、と言ったところでしょうか。