VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1562 『クラインの夢』(田中公平/アランドラ/PS)

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SCEがおくるアクションRPGアランドラより、

田中公平作曲、『クラインの夢』。同名のダンジョンで流れます。

マトリックスが開発した初期の作品としてSCEが販売を手がけた本作。神罰により人々は創造力を奪われ、代わりに眠りに就く際に見る夢だけは望み通りに操れるようになった世界を舞台に、人の夢に入り込む力を持つまどろみの一族の少年・アランドラは、滅びをもたらす悪魔が目覚めるという予言を聞いて旅立つことになる。謎解きを重視したトップビュー型のアクションRPGで、退廃感のある世界観で死や狂気、豹変などのシリアスなテーマが描かれる。グラフィックは2Dだが高低差の概念がある疑似3Dのマップで、攻撃やジャンプ、物を持ち上げたり投げたり、アイテムを使用したりしてギミック満載の道中を攻略していく。操作のレスポンスは優れていて緻密に動かせるが、その分だけアクションと謎解きの難易度も高めに設定されている。初見で直感的に進められるタイプではなく、すくないヒントを頼りに周りをよく観察して試行錯誤を積み重ねて解に辿り着くタイプで、ギミック作動の順番やアクションのタイミング、足場の見極めなど様々な要素にじっくり向き合う必要がある。全体的な雰囲気の重さ、要求される対処力、一部の展開やレベルデザインでみられる多少の強引さと相まってなかなか骨が折れるが、独自の噛み応えのある仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは田中公平氏。音楽制作会社イマジンに所属する作曲家で、80年代から主にアニメや映画の歌や劇伴作曲の分野で精力的に活動している。本作では主題歌含む作曲に加えてミュージックプロデューサーを兼任していて、続編でも引き続き担当することになる。本作の音楽は独特な翳と美しさのある雄大なオーケストラサウンドを特徴とする。ダンジョン曲を中心にストリングスやクワイアを使った不穏な曲調がみられる一方で、心洗われるような流麗で幻想的な曲調のものもあり、謎解きの没入感とモチベーションをうまく引き出している。サウンドトラックには一部未収録のものもあるが主題歌込みで収録されている。

クラインの夢の中で流れるのがこの曲である。クラインは悪夢と狂気に取り憑かれた狩人である。彼の夢の中は一面雪に覆われていて足元が滑りやすく、屋内に入っても氷の柱を使ったスライドパズルがある。氷柱は一度押したら他の物にぶつかるまで直進し続け、さらにこの氷柱を足場にして飛び移る場面もある。そうした難解なダンジョン攻略のお供として、この曲は美しいニューエイジ風に仕上げられている。手始めに吹雪のような効果音にざわめくシンセストリングスを組み合わせてムードを整え、8秒頃からプラック系の音色を取り入れて穏やかな聴き心地を生み出す。22秒から本格的にメロディーが入ると、キーボードを軸にタンバリンやウッドブロック、ベースなど細々と散りばめて冷涼で霊妙な空気感を形作る。53秒で伴奏にシンセストリングスが付くようになると、徐々にクールでクリアな響きが強まっていく。やがて1分22秒頃からハーモニカを彷彿させる音色が聴こえ出すと安らかな哀愁を漂わせ、1分45秒あたりで綺麗にピアノを添えた後は次第に収束する。聴いているとすっと思考が澄んでいくような一曲である。

この曲を紹介してほしいというリクエストをいただきました。本来の時期を考えると遅いですが暑さはまだまだですし、この曲で残暑見舞いとしましょうか。