VGM格納庫

Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1599 『Scrubbing For Clues』(Matthew "2 Mello" Hopkins/2064: Read Only Memories/PC・OUYA)

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MidBossがおくるサイバーパンクアドベンチャー・2064: Read Only Memoriesより、

Matthew "2 Mello" Hopkins作曲、『Scrubbing For Clues』。

Haydenのアパートで流れます。

アメリカのインディースタジオ・MidBossのデビュー作にあたる本作。2064年のネオサンフランシスコを舞台に、売れないジャーナリストの主人公は、ある日やってきた自立思考型AIロボット・Turingから友人の天才研究者・Haydenが誘拐されたと知り、めくるめく謎と混沌の渦に身を投じることになる。ポイント・アンド・クリック系のクラシカルなアドベンチャーで、見た目は80~90年代風のレトロ感があるが、中身の世界観は王道な近未来SFである。謎を追うなかで複雑な事情を抱えた個性的な登場人物と交流し、選択肢や行動によって分岐するマルチシナリオを楽しみながら、テクロノジーと人間の在り方、人間性や人権、インクルーシブなテーマなど様々な課題を紐解いていく。基本的にボイス付きで物語を進めていくなかでも、ときにパズルや迷路などミニゲームに挑むシーンが挟まれる。また、本筋以外でも物を調べた際の反応の充実ぶりが印象的で、主人公の独白の面白さもさることながら、AIロボットと言いつつ奇妙に人間臭い相棒とのやりとりを堪能することができる。総じて古典的な遊び心地のある良作に仕上がっている。後にPS4、Vita、Xbox Oneスマホ、スイッチに移植され、当初の作品名から改題したり追加要素が加えられたりしている。

本作の音楽を担当するのはMatthew "2 Mello" Hopkins氏。アメリカ出身の作曲家兼ラッパーで、ヒップホップ系のジャンルを得意とする。ゲーム音楽関連では現在は公開終了しているが以前は頻繁に既存ゲームのファンリミックスを投稿していたようで、今でも時折トリビュート的なアルバムを出している。本作を皮切りにインディー作品に楽曲提供するようになり、本作の続編には参加していないもののレトロフューチャーな世界観に寄り添った味わい深い楽曲を数多く書き下ろしている。揺蕩うようなシンセを軸としたローファイやチルウェイブ風のサウンドが特徴的で、独自の居心地の良さと退廃感のある雰囲気を生み出している。サウンドトラックはSteamのDLCやBandcamp経由で配信されている。

物語序盤、失踪したHaydenのアパートで流れるのがこの曲である。より具体的には、部屋の前の廊下で警備ロボットに足止めされるシーンで、捜査の許可を得るために思案することになる。そうしたなか、イントロからミドルテンポで仄暗いディスコ調のシンセが辺り一帯に充満するように響き渡る。音色自体は煌びやかだが、全体的なムードはメランコリックなところがあり、焦燥感や喪失感、やるせなさやもどかしさが絶えず付き纏う。38秒からようやく主旋律と言えそうな高音のフレーズが聴こえ始めるが、それで曲の流れが大きく変わるわけではなく、相変わらず似通ったトーンが続く。その後1分15秒には伴奏のみに戻るが、1分33秒から再始動すると今度はもうすこしはっきりとメロディアスな展開をみせる。それでも依然としてベースやドラムの刻み方に変化はないが、だからこそループ直前の1分50~52秒の刹那的な切り替えが非常によく映える。煌びやかだけど暗く、心地良いけれどじれったく、安らぎと胸騒ぎを同時に誘う一曲である。

この曲を紹介してほしいというリクエストをいただきました。こういうアンビバレントな温度感が漂う曲って素敵ですよね。