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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1689 『ジパング』(小林亜星/虹のシルクロード~ジグザグ冒険記~/FC)

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ビクター音楽産業がおくるRPG・虹のシルクロードより、

小林亜星作曲、『ジパング』。ジパングで流れます。

サンサーラナーガの発売元などで知られるビクター音楽産業の初期のRPGにあたる本作。中東の小国・リタルランドの王子である主人公は、悪の大臣・ズルーに乗っ取られた国を取り戻すべく、王家の証たる七つの虹の鏡を求めてシルクロードを旅することになる。西はアラビア、東は中国まで、古代の交易路を再現した異色のコンセプトが特徴的である。RPGと一口に言っても商売を軸に据えたシミュレーション的な側面があり、商品は場所によって相場や希少価値が異なるため、仕入れた商品を売ることで資金繰りを進めるのが基本となる。戦闘では一般的な経験値の概念がなく勝利してもお金を得ることはないが、商売許可書と引き換えられるライセンスポイントを入手でき、商売の幅を広げながら成長していく。水と渇きの概念、動物による商品の運搬、兵隊の雇用、遠距離移動に伴う税金や事故のリスクなど、世界観に即した要素が多く盛り込まれている。一方で単調な作業の反復が中心でゲームバランスに難があり、旅の動機付けと物語はあっさりしている。総じて発想と雰囲気づくりのユニークさが窺える意欲作に仕上がっている。

本作の音楽を担当するのは故・小林亜星氏。CMやアニメソングなどの楽曲提供を多く手がけた作曲家である。様々な分野で活躍してきた大物で、ゲーム音楽に携わるのは本作が初めてのようである。なお、ファミコン音源への編曲は樹原涼子氏が担当している。本作では中東以東の実在の都市が登場することから、各地の風土や空気感を表現したオリエンタルなメロディーを取り入れている。独自の異国情緒が漂っているが、冒険活劇的な剽軽さも備えていて、曲数の多さとも相まってバラエティに富んだサウンドを楽しむことができる。サウンドトラックはイメージアルバムという体裁でファミコン原曲とともにシンセアレンジやボーカル入りを含めて収録されているが、未収録曲もすくなくない。

ジパングで流れるのがこの曲である。シルクロードの東の果て、中国からさらに海を渡って辿り着く最後の国である。主人公にとっては故郷から遠く離れた異国の地だが、この曲はむしろプレイヤーの耳に馴染むような安心感あふれる曲調に仕上げられている。ゆったり緩やかに奏でられる高音の旋律に、優しく柔らかい三角波の伴奏が寄り添うことで、なんとも和やかで夢見心地な気分に浸らせてくれる。特に14~16秒で主旋律と伴奏が高めの音程で長く鳴る際、それまで規則的に響いていた副旋律のアルペジオが一時的に抜けて表現に工夫を凝らしている。また、23秒で一旦最初のフレーズに戻るが、後半の35秒からは概ね共通しつつもすこし異なる締め方をしている点が印象深い。曲そのものは特別に和風という感じはしないが、聴く者にとって心の拠り所となるようなムードを醸し出している。とても落ち着く一曲である。

心が休まりますね。サウンドトラックにはボーカルアレンジの『MAHOROBA~約束の地~』があって、スージー・キムさんのささやくような歌声が綺麗です。下記動画の26:00から31:09まで、あわせてどうぞ。

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