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Video-Game Music Registry:好きなゲーム音楽を隔日更新で紹介します。

#1297 『聲』(天野月子/零~刺青の聲~/PS2)

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テクモがおくるホラーアクションアドベンチャー・零より、

天野月子作詞・作曲・歌唱、刺青の聲より『聲』。エンディングで流れます。

和風の世界観とカメラを用いた操作が特徴の零シリーズの3作目にあたる本作。恋人を亡くした女流写真家・黒澤怜は、仕事で訪れた廃屋で死んだはずの恋人を目撃したことを契機に、毎晩同じ屋敷に迷い込む悪夢を見始め、夢と現実の狭間で彷徨うことになる。主に少女を主人公としてきた前作までと違い、本作では成人女性をメインに据えつつ、準主役という立ち位置で初代主人公の深紅と男性作家の螢、しめて3人がプレイアブルとして登場する。怜はフラッシュで霊を怯ませられ、深紅は溜め技や敵の動きを遅くさせる能力に長け、螢は霊感が弱い(攻撃力が低い)代わりに物陰に隠れたり障害物を動かしたりできるなど、それぞれ特色が異なる。チャプタークリア形式で章ごとに操作する主人公が定められ、章を挟むたびに夢と現実を行き来する構成を取っている。現実世界では物資を補給できるが、物語が進むにつれて次第に怪奇現象に侵蝕されるため、ゲームテンポは遅めながらもじわじわと忍び寄る恐怖を味わうことができる。すこし大人びたムードが漂う仕上がりとなっている。

本作の音楽を担当するのは豊田亜矢子氏。テクモ(現コーエーテクモ)に所属する作曲家で、零シリーズには前作や次作なども含めて連綿と携わっているシリーズサウンドの立役者である。また、主題歌には前作に引き続きシンガーソングライターの天野月子(現在の名義は天野月)氏を起用しているほか、作中の子守歌は当時子役声優だった黒葛原未有氏が歌っている。これまでと同様、実際のプレイ中に鳴る音は環境音が中心で、冷たく尖ったもの、湿り気のあるもの、不吉であると同時に神秘的でもあるものなど、場の空気を整えるサウンドが多く取り揃えられている。サウンドトラックについては、主題歌のシングルやアルバムは存在するが、その他の楽曲は扱われていない。ただし、濡鴉ノ巫女のリマスター版の発売に際して登場した20周年記念デジタルアートブックに本作含む歴代シリーズ作品のサウンドテスト機能が搭載された。

本作の主題歌兼イメージソングとして、エンディングで流れるのがこの曲である。ぽつんぽつんと感情が抜け落ちたような音色を奏でるピアノで始まり、8秒から同じピアノでも音程を伴う旋律が入り、20秒からストリングスが加わると、徐々に情緒を帯びていく。26秒でボーカルが参戦すると、沈んだ調子ながらも芯のある歌声を披露する。サビに向けてやおら勢いづくなかでも、特に1分23秒からの「あなたはいない、わかっている、わかっている」というフレーズが象徴的である。初めは自分に言い聞かせているかのようだが、後半からエレキギターが入ると、歌い方はそう変わらないのに内側から激しさが込み上げてくるような響きを生む。続くサビでは感情を発露し、儚く悲痛だけど強く胆力のある声で精いっぱい盛り上げる。サビの後は一旦落ち着くが、間奏部分ではピアノやストリングスに加えてギターも時折鳴るため、曲冒頭にはない心の荒みが感じられる。その荒みを受け継ぐようにして、二度目のサビの後には大胆なギターの見せ場が与えられる。曲の出だしからは想像がつかないほど熾烈で、再びサビを迎えた暁にはこれで最後だろうと思わせておいて、サビ終わりと入れ替わるように4分45秒から新パートが入る。曲の末尾はあえて必要最小限とも言える簡素なピアノアウトロで締める。水紋が広がってやがて収束するように、千変万化の表情をみせる一曲である。

一番目が「あなたはいない、わかっている、わかっている」に対し、二番目が「求めていた、求めていた、幻でも」で、後ろの句を反復するか前の句を反復するか差があって素敵ですね。